Case Study:屋内外で稼働する機器開発で活躍するハンドヘルド・オシロスコープ

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自動車の自動運転の実現が近づく中で、自動車以外の農機具、建設機械、フォークリフト、搬送ロボットなど屋内外で稼働する機器の開発が進められている。これらの自動運転は、多くのセンサーの採用により実現可能になる。しかし実機での動作確認は、各センサーからの信号や制御駆動回路のタイミングなどを実機に搭載したオシロスコープで確認しながら行う必要がある。

このような開発現場には、小型でチャンネル数が多いオシロスコープが必要だが、現在のハンドヘルドタイプのオシロスコープの多くは、フィールドサービス向けに開発されているためチャンネル数が少なく、開発用途としては使いにくい。そこで多くの開発現場では、デスクトップタイプの小型オシロスコープと、電源用にDCからACに変換するインバータを組み合わせて開発の作業をしているのが現状だ。

そこで、そのような開発用途に適したハンドヘルド・オシロスコープが、ローデ・シュワルツ社から発売されている。今回の取材レポートは、このハンドヘルド・オシロスコープを活用した自動車向けの製品開発の現場を紹介する。

自動車のアフターマーケット向け製品の開発過程で使ってみた

取材で訪問したのは、長野県安曇野市の株式会社サーキットデザイン。無線機器の開発メーカーで産業用リモコンや無線モジュール、自動車向けのエンジンスターターの他、最近では野生動物の行動調査のシステムなど、他社に先駆けて開発した無線機器やシステムが多く、ヨーロッパへ向けての輸出も多い。

この会社は、元々、ローデ・シュワルツ社のオシロスコープのユーザーで、今回は製品開発の段階でハンドヘルド・オシロスコープを使ってみたいとの情報が入り、その使用例の取材することをお願いした。

寒冷地の車オーナーに信頼が高いエンジンスターター

今回は、サーキットデザイン社の中でも歴史のある商品分野で、自動車のアフターマーケット向け製品のエンジンスターターを開発するチームの、技術部 池田博志氏(部長代理)と、北澤紘一氏(チーフエンジニア)の協力を得て取材した。

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リモートでエンジンをかけることの安全性

エンジンスターターと言えば、多くの人は初めて耳にする人も多いと思う。エンジンスターターは、北海道、東北、信越などの寒冷地で、家の中から電波を使用したリモコンで車のエンジンをかけて暖機運転を行うもので、寒冷地域にとっては大変便利なものだ。そのため多くの車に取り付けられていて、新車・中古車に関わらず、購入時に装着することが多い。

「リモートでエンジンをかける単なるリモコン」と言ってしまえば簡単だが、実際は無人の自動車のエンジンをかけることは、安全上、法律的にも厳しい条件がある。例えば、パーキングブレーキ状態、シフトレバーの位置、ドアの開閉などの状況を確認しないでエンジンを始動すると、勝手に車が動いてしまい事故に繋がってしまう。また、始動後に、長時間エンジンが動いたままで放置していると、車の盗難に合うことも予想されるため、様々な回路とソフトウェアで車の安全を守っている。

車のアフターマーケット製品の課題

市販車の後付けのアクセサリー製品を開発するには、アフターマーケットゆえの課題も多い。メーカー、車種、年式等により車の仕様が様々であったり、同じ車種、年式でも途中でメーカーの仕様変更が発生するなど、その全ての条件に対応していく必要がある。そのため、十分確認されていない車種の場合は、車のオーナーにモニターをお願いして動作確認を行っている。

今回の取材では、そのモニタリングから3点の課題が見つかり、そのうちの1点で、エンジンスタート時にエンジンが実際始動しているにも関わらず、再始動を繰り返す現象の解析と対策をする現場に立ち会うことができた。

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今回は冬季であるため、モニターの車を借りての室内でのテストだったが、何回もテストすると排気ガスが充満して危険のため、シャッターを開けて外気を入れる。すると冬の信州の冷気が一気に入ってくる。やはり長時間のテストをする現場は大変だ。それでもコンパクトなハンドヘルド・オシロスコープは、運転席に収まり、バッテリ駆動なので、電源コードに邪魔されず、使い勝手は非常に良い。

測定した波形はネット経由でリアルに確認

このオシロスコープは、USBやマイクロSDにも保存できるが、今回はLAN接続によりテスト現場にオシロスコープを接続したまま、会議室で波形を見ながら検討した。

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このモニター車は、エンジンスタートの信号を受けた後にエンジンは始動したが、実際はセルが3回トライしていて、エンジンの回転のセンシングが上手くいってなかった。回転のセンシングの方法はいくつかあって、この車はジェネレータの電圧の上昇で判断していたが、そのセンシングが上手く行われていないことが判明。そこで、もう少しセンシングの精度を上げるため、オシロスコープのタイミング波形を見ながら、デバック用のシミュレータを使いタイミング調整を行った。これにより正確なタイミング値に設定でき、再テストでは正常に動作した。

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このように測定現場と、解析する開発拠点のネットワークで連携しての開発は大変効率が良い。今回はモニターの車を借りて来ることができる状況だったが、これが北海道のモニター車であっても、このオシロスコープを接続できれば、遠隔地から波形測定ができて、それを元に安曇野市の開発拠点で対応することが可能になる。

使用してみた感想

1. ポータブルなので小さくて使いやすい。電源が無い場所でもバッテリー駆動なので使用できる。

2. ローデ・シュワルツのハンドヘルド・オシロスコープは、LCDの画面が大きく、色もきれいで大変見やすい。

3. デスクトップに近い画面サイズで、タッチパネルなので、開発現場でも使いやすい。

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まとめ

遠隔地でも使える機動性と開発チームとの連携で素早い問題解決

今後、IoTをはじめ、自動運転やAIを採用した移動機器が増加することは予想される。そして、実際に市場投入された後から使用状況や環境によっては課題も出てくる。その対応には現場での測定・解析、そして開発現場との連携により、素早い問題解決の対応が必要になる。

益々進化し複雑化する機器。ローデ・シュワルツ社製のハンドヘルド・オシロスコープが、このような開発現場で活躍すると確信した。

取材した機器

R&S®Scope Rider ハンドヘルド・オシロスコープ

モデル:R&S®Scope Rider RTH1004

  • 基本仕様入力チャネル:4CH
  • 帯域:60 MHz
  • 5G サンプル/秒
  • ADC分解能:10bit
  • データ保存:USB/マイクロSD付属機能ロジック・アナライザ、プロトコル・アナライザ、
  • データロガー、デジタル・マルチメータ、
  • XY動作モード、マスクテスト・モード

取材協力:株式会社サーキットデザイン

本社所在地:長野県安曇野市
業務内容:無線応用機器(産業用リモコン、エンジンスターターなど)

取材・制作:indexPro (株式会社インデックスプロ社)