Application Notes

ネットワークとスペクトラム解析の組み合わせによるアンプの特性評価

アンプのように複雑なDUTの総合特性評価では、いくつかのパラメータを測定する必要があります。複数のテスト機器や高価な機器を必要とする場合もあります。R&S®ZNLは、その汎用性により、ネットワーク解析とスペクトラム解析の両方でさまざまなDUTの特性評価を行うことができる、経済的なソリューションです。

R&S®ZNL(後ろ)、R&S®FS-SNS18(左)および外部プリアンプ(右)によるアンプの雑音指数測定。電源にはR&S®HMP2030 プログラマブル電源(右後ろ)を使用しています。
R&S®ZNL(後ろ)、R&S®FS-SNS18(左)および外部プリアンプ(右)によるアンプの雑音指数測定。電源にはR&S®HMP2030 プログラマブル電源(右後ろ)を使用しています。
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課題

アンプは、数えきれないほどの用途がある最も一般的なRFコンポーネントの1つですが、測定が極めて複雑となる被試験デバイス(DUT)でもあります。より完全な特性評価のためには、アンプは特定の周波数または電力でリニアSパラメータを決定するためのテスト、および高調波歪み、3次インターセプト(TOI)、圧縮ポイントおよび雑音指数を測定するためのテストを行う必要があります。しかし、従来型のベクトル・ネットワーク・アナライザでは、これらを行うには不可能な場合があります。実際、それらのパラメータのテストにはハイエンドの機器が主に使用されていますが、従来型の経済的なベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)は通常、データを正しい形式で利用できるようにするために複雑なセットアップと長時間の後処理が必要になります。

複数のテストステーション間で切り替えながらVNAおよびスペクトラム・アナライザを使用することは可能です。しかし、DUT(あるいはVNA)、ケーブル、校正キット、ユニットなどをある場所から別の場所へと移動しなければならなかったり、時間やスペースが限られている場合などは現実的ではありません。

R&S®ZNLのマルチビューでのデータ表示。このセットアップは、1つ以上のモードを追加のチャネルとしてアクティブにすると自動的に有効になり、アクセスして画面上部の対応するタブに移動できるようになります。
R&S®ZNLのマルチビューでのデータ表示。このセットアップは、1つ以上のモードを追加のチャネルとしてアクティブにすると自動的に有効になり、アクセスして画面上部の対応するタブに移動できるようになります。
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ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®ZNLのスペクトラム・アナライザ、信号発生器、および雑音指数測定機能(R&S®ZNLx-B1、R&S®ZNL-K14およびR&S®ZNL-K30 オプションにより可能)を使用することで、それらの問題に対処できるようになり、ステーション間でテストセットアップを移動させる必要も一切なくなります。

R&S®ZNLは経済的な多機能ポータブルテスト機器です。ベクトル・ネットワーク・アナライザを搭載しており、スペクトラム・アナライザのハードウェアを追加できます(R&S®ZNLx-B1 オプション)。また、小型軽量のワンボックスにアンプの完全な特性評価に必要な全てのツールと機能を備えています。さらに、バッテリーパック(R&S®FPL1-B31 オプション)を取り付けることで、場所を選ばす使用できるようになります。ネットワーク解析モードとスペクトラム解析モードの切り替えは非常に簡単です。R&S®ZNLのマルチビューは、双方のモードのすべての結果を1つのウィンドウに表示するので、データ表示がわかりやすく、包括的なレポート作成に役立ちます。

ネットワーク解析モードでのSパラメータ振幅の測定。選択された周波数レンジ内で少なくとも約15 dBの利得でアンプを測定しています。高いVNAパワー出力が測定レシーバーに過負荷をかける場合があります。
ネットワーク解析モードでのSパラメータ振幅の測定。選択された周波数レンジ内で少なくとも約15 dBの利得でアンプを測定しています。高いVNAパワー出力が測定レシーバーに過負荷をかける場合があります。
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アプリケーション

R&S®ZNLのベクトルネットワーク解析モードなら、アンプの利得、入力リターンロス(またはVSWR)および出力リターンロスを正確に測定できます。測定に該当する帯域幅を選択するだけで掃引に必要な周波数レンジとポイント数を定義し、必要なダイナミックレンジと測定速度を調整します。R&S®ZNLのポートは、27 dBm以上の入力でも損傷することはありません。ただし、被試験アンプとR&S®ZNLの内部レシーバーを圧縮領域に入れる(または破壊する)ことのないようにすることも重要です。そのため、R&S®ZNLの出力パワーは慎重に選ばなければならず、必要に応じて外部アッテネータの使用も検討する必要があります。測定レシーバーに過負荷がかかると、システムメッセージにより、測定確度と機器の信頼性を確保するよう通知されます。さらなる保護のため、R&S®ZNLは、レシーバー・ステップ・アッテネータをポート1(R&S®ZNLx-B31 オプション)およびポート2(R&S®ZNLx-B32 オプション)でアクティブにしたり、パワー出力を-40 dBm程度に抑えたり(R&S®ZNLx-B22 オプション)することができます。

スペクトラム・アナライザ測定の選択。このメニューはスペクトラム解析モードのときに"Meas"ボタンを押してアクセスできます。
スペクトラム・アナライザ測定の選択。このメニューはスペクトラム解析モードのときに"Meas"ボタンを押してアクセスできます。
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最後に、テストを開始する前にフル2ポート校正を行う必要があります。校正はメニュー内のワークフローに従って実行できます。手動の校正キットもしくはローデ・シュワルツの自動校正ユニットを選択して開始し、標準の接続および測定までを行います。

スペクトラム解析モードは"Mode"メニューからアクセスできます。ここでは複数の測定を実行でき、関連情報がわかりやすく表示されます。測定セットアップで物理的な変更を行う必要はありません。

アンプには、以下の測定が推奨されます。

  • ゼロスパン
  • 高調波歪み
  • 3次インターセプト

「ゼロスパン」は、同じ周波数でスティミュラスが与えられたときの特定の周波数におけるアンプの圧縮ポイントを測定できます。通常は外部信号源が必要ですが、R&S®ZNL-K14 オプションは独立した連続波(CW)信号発生器を備えており、追加機器が不要です。レシーバーのセッティングに必要なのは、テスト周波数の選択と適切な減衰のみです。同じテスト周波数と、DUTが圧縮されないよう十分に低く抑えられた信号レベルを入力して、信号発生器を設定します。

圧縮ポイントを簡単に識別するために、信号発生器のレベルがアンプの出力と一致するように基準オフセットを調整することができます。CW信号源の信号レベルを徐々に上げていく場合、必要なのは画面に表示された量を監視することだけです。ただし、表示された量が、選択された入力よりも特定のdB量下がったときは、注視する必要があります。

500 MHzにおけるアンプの「ゼロスパン」測定。CW入力信号が-20 dBmの場合、マーカーが信号発生器の入力(-20 dBm)と同じ数値を示すように基準オフセットが選択されています。その信号レベルは、マーカーが信号発生器のレベルとちょうど1 dB差の値を示すまで上がります。そのため、-1 dBの圧縮ポイントは-10.5 dBmの入力電力の時点であるという結論が得られます。
500 MHzにおけるアンプの「ゼロスパン」測定。CW入力信号が-20 dBmの場合、マーカーが信号発生器の入力(-20 dBm)と同じ数値を示すように基準オフセットが選択されています。その信号レベルは、マーカーが信号発生器のレベルとちょうど1 dB差の値を示すまで上がります。そのため、-1 dBの圧縮ポイントは-10.5 dBmの入力電力の時点であるという結論が得られます。
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ネットワーク解析モードでは、DUTがその線形領域(-1 dB圧縮の前)にあるときに増幅された送信CW信号をノーマライズすることにより、およびアンプの入力への信号のパワーの供給が徐々に増えたときにS21カーブのゼロからの偏移を観察することにより、同じ測定を実行することもできます。

スペクトラム解析モードでは、DUTの高調波歪み性能をテストすることもできます。スペクトラム解析メニューで "harmonic distortion" を選択するだけで、選択された搬送波に関連する高調波値が表示されます。このシステムでは、最初の10個の高調波のデータと、全高調波歪み(THD)が自動的に表示されます。高調波の数と掃引時間の両方とも、適切なメニューで調整できます。

パワー・センサNRP18Tは、DCから18 GHzまでの-35 dBm~+20 dBmの測定をサポート。
パワー・センサNRP18Tは、DCから18 GHzまでの-35 dBm~+20 dBmの測定をサポート。
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測定メニューで"third-order intercept"を選択すれば、相互変調成分も簡単に表示させることができます。ただし、このテストに限ってはDUT入力を2トーン信号にする必要があり、これを取得するには外部コンバイナーを通して2つの異なるCWをマージします。信号のうち1つはR&S®ZNL-K14 オプションによりR&S®ZNLのポート1から供給され、もう1つは信号発生器または2つ目のVNAなどの外部ソースから供給されます。このセットアップにより、アンプのTOIに関する情報を得ることができます。

500 MHz搬送波の最初の10個の高調波は、「高調波歪み」測定とともにわかりやすく表示されます。その周波数とパワーレベルは、結果サマリーテーブルにリストされます。CW発生器は、画面左のツールバーで操作できます。
500 MHz搬送波の最初の10個の高調波は、「高調波歪み」測定とともにわかりやすく表示されます。その周波数とパワーレベルは、結果サマリーテーブルにリストされます。CW発生器は、画面左のツールバーで操作できます。
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スペクトラム解析モードで、パワー測定にさらに広い測定範囲または度量衡グレードの精度が必要な場合は、R&S®FPL1-K9 オプションですべてのR&S®NRP パワー・センサのサポートを有効にできます。

ケーブルにより損失が発生するので、DUTの入力におけるR&S®ZNLの信号パワーレベルがチェックされ、あらゆる損失を判定できます。スペクトラム解析モードでは、発生器のパワーレベルと、DUTの入力へのケーブルが代わりにポート2またはパワー・センサに接続されたときに機器によって表示されるレベルを比較し、入力と出力の差を解析できます。DUTの入力信号を微調整したり、ケーブル損失を補正したりするには、発生器のオフセットを使用できます。ネットワーク解析モードでは、ポート1で波形測定値a1、ポート2でb1を解析することにより、同様の評価が可能です。

さらに、R&S®ZNLの"Mode"メニューの"Noise Figure"を選択すれば、アンプの雑音指数(NF)をテストすることができます。この測定では、DUTの要件に応じて、R&S®ZNL-K30 オプションを起動し、外部プリアンプと連動してノイズソースを利用可能にする必要があります。R&S®FPL1-B5 オプションでは、R&S®ZNLでノイズソースを直接制御することができます。NF測定を簡単かつ高精度にするには、R&S®FS-SNS スマート・ノイズソースを推奨します。これはシステムが自動的に識別するため、ユーザーが入力を設定する必要がありません。

R&S®ZNL6のCW発生器が1 GHzに設定され、もう1つの1.2 GHzのCW信号は外部信号発生器から供給されます。2つのトーンはコンバイナーでマージされ、アンプへの入力として供給されます。結果のスペクトラムは、R&S®ZNL6の「3次インターセプト」測定モードで測定されます。スペクトログラムもアクティブにすることができます。
R&S®ZNL6のCW発生器が1 GHzに設定され、もう1つの1.2 GHzのCW信号は外部信号発生器から供給されます。2つのトーンはコンバイナーでマージされ、アンプへの入力として供給されます。結果のスペクトラムは、R&S®ZNL6の「3次インターセプト」測定モードで測定されます。スペクトログラムもアクティブにすることができます。
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測定設定も、周波数レンジと掃引ポイントを選択するだけなので、非常に簡単です。必要に応じて、各ポイントで測定時間とセトリング時間を制御することもできます。アンプの雑音指数の特性評価には、異なるDUT接続が必要です。システムは、プリアンプを挟んでノイズソースをR&S®ZNLの第2ポートに接続することにより校正されます。校正手順が完了したら、DUTをノイズソースとプリアンプの間に挿入して(1ページの写真を参照)測定します。すべてのR&S®FS-SNS モデルは不確かさの計算もサポートしており、NFダイヤグラムにわかりやすく表示されます。不確かさをアクティブにして正しく表示するのも簡単です。適切なメニューをアクティブにし、使用するプリアンプのチェックボックスをオンにして、その利得とNFを入力するだけです。

アンプが1 GHz~2.4 GHzの間の101のポイントで測定されます。関連ダイヤグラムにはNF、利得、Yファクターが表示され、各周波数に対するその値が結果テーブルにリストされます。不確かさの計算は、R&S®FS-SNS18を使用して簡単にセットアップできます。
アンプが1 GHz~2.4 GHzの間の101のポイントで測定されます。関連ダイヤグラムにはNF、利得、Yファクターが表示され、各周波数に対するその値が結果テーブルにリストされます。不確かさの計算は、R&S®FS-SNS18を使用して簡単にセットアップできます。
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まとめ

R&S®ZNL ベクトル・ネットワーク・アナライザは、アンプのように測定が極めて難しいDUTに対し、冗長なセットアップや幅広いRF知識なしでも特性評価を行うことができる汎用測定器です。信号発生器や雑音指数測定などのスペクトラム解析オプションを備えているため柔軟性が非常に高く、バッテリーパックのようなハードウェアオプションを使用すれば、ラボでも屋外でも、あらゆるワークプレイスでのオールラウンダー測定器となります。R&S®NRP パワー・センサとR&S®FS-SNS スマート・ノイズソースを使用すれば、さらに正確かつ簡単に測定を実行できます。