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高パルス密度のシナリオでの革新的なレーダー信号発生

周波数およびレベルのアジリティーを使用するレーダーシナリオのシミュレーションで、パルス密度が高く、再生時間が長い場合には、R&S®SMW200A ベクトル信号発生器のリアルタイムシーケンス設定機能が役に立ちます。

高パルス密度のレーダーシナリオ
高パルス密度のレーダーシナリオ

課題

レーダー警戒受信機をミッションに配備する前には、徹底した動作テストが必要です。レーダー警戒受信機は、多種類の複雑なレーダーから発生する高密度パルスのシナリオに対応できる必要があります。必要なレーダー信号のパルス繰り返し周波数(PRF)はさまざまで、通常は数kHzから数百 kHzに及びます。PRFがわずか150 kHzでも、シナリオの長さが1 sの場合、発生するパルスの数は150,000個になります。

結果のパルス数とシミュレーション時間の関係
結果のパルス数とシミュレーション時間の関係
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PRFが低いシナリオの場合でも、多数のパルスが発生する場合があります。これは、必要なシナリオの長さがアンテナのスキャン時間によって決まることが多く、このスキャンにはかなり時間がかかるからです。最大の課題は、このような長時間の現実的なシナリオを、適切なシミュレータを使用してラボ内で再現することです。

また、現実的なシナリオを再現するために、シミュレータは、変調パルスと非変調パルスの両方に対応し、周波数のアジャイルスイッチングをサポートする必要があります。この技術は、レーダーで妨害やジャミングを防ぐために使用されています。さらに、シナリオには長時間の無信号状態が含まれる場合もあります。これは、レーダーアンテナの狭方位角ビームが、少ない頻度でしかDUTにあたらないという事実を反映するためです。このようなシナリオのシミュレーションでは、計算時間が非常に長くなり、信号ファイルのサイズはギガバイト単位にもなります。これは、従来の任意波形による方法では、きわめて困難あるいは実現不可能な場合があります。

R&S®パルスシーケンサ・ソフトウェアが計算したシーケンスリストの例:4つの制御ワードによってリアルタイム(RT)信号または波形(WV)セグメントへの参照を定義

電子計測ソリューション

ローデ・シュワルツのR&S®SMW-K501 拡張シーケンス設定およびR&S®SMW-K502 ワイドバンド拡張シーケンス設定オプションを使用すれば、このような課題に対するカスタムソリューションを実現できます。このソリューションでは、R&S®SMW200A ベクトル信号発生器の強力なデジタル・ベースバンド・ハードウェアとR&S®パルス・シーケンサ・ソフトウェアに基づいて、複雑なパルスシナリオを短時間でモデル化できます。

R&S®パルス・シーケンサ・ソフトウェアは、制御ワードからなるシーケンスリストに基づいて、信号をモデル化します。リスト内のすべての制御ワードによって、最終的な信号が定義されます。制御ワードには、パルスド信号を定義するすべてのパルスパラメータが含まれています。R&S®パルス・シーケンサ・ソフトウェアで使用される制御ワードのフォーマットには、パルス幅、変調方式(MOP)、相対パワーレベル(アンテナスキャンをモデル化する場合など)、周波数または位相オフセット(周波数ホッピングをモデル化する場合など)が含まれます。

各制御ワードには、到着時間(ToA)情報を表す相対タイムスタンプが割り当てられ、各パルスの再生時間を定義します(PRIスタッガーや長いオフ時間をモデル化する場合など)。このフォーマットは、パルスの記述を保持する代わりに、あらかじめ計算された任意波形の波形セグメントを参照することもできます。周波数オフセット、位相オフセット、相対パワーレベルは、すべての制御ワードに常にリアルタイムで適用されます。

シーケンスリストを使用したリアルタイムのシーケンス設定とリアルタイムの信号発生

デジタル・ベースバンド・ハードウェアは、アップロードされた制御ワードのリストを解釈し、R&S®SMW200Aのリアルタイムの信号発生機能を利用することで、ToAによってトリガイベントを基準に定義された時間に信号を発生します。非変調方形パルスおよびリニア周波数変調またはBarkerコードのパルスがリアルタイムで発生され、レベル、周波数、または位相オフセットと、パルス幅の変更が適用されます。2つのパルスの間の長いオフ時間は、異なるToA値によってモデル化されます。パルス間の隙間を埋めるI/Qサンプルをあらかじめ計算する必要はありません。このリアルタイムのシーケンス設定および信号発生方式により、従来の任意波形方式に比べて、必要なメモリと計算時間を大幅に減らすことができます。

次の例では、制御ワードのシーケンスリストを使用したシナリオのファイルサイズを、従来の任意波形方式と比較しています。このシナリオ例では、パルスごとに異なるパルス・トップ・パワー・レベルが作成されます。

このレベル変動は、R&S®パルス・シーケンサ・ソフトウェアのパルス間変調機能を使用して実現されます。

シナリオパラメータ
シナリオパラメータ 設定 単位
パルス幅 20 μs
チャープ帯域幅 20 MHz
パルス繰り返し間隔 1 ms
シナリオ持続時間 1 s

次の表に示すように、シーケンス設定法で作成されたシナリオファイルのサイズは、任意波形法の場合よりもはるかに小さくなります。計算時間も大幅に短縮されます。

結果のファイルサイズ
方式 ファイルサイズ
ARB法 305 Mバイト
制御ワードのシーケンスリストを使用したシーケンス法 22 kバイト

事前計算された波形セグメントのリアルタイムシーケンス設定

シーケンスリストでは、あらかじめ計算した波形セグメントを使用して、リアルタイムで再生することもできます。これは、方形波以外のパルスエンベロープを使用する場合や、Barkerコードまたはリニア周波数変調以外の変調方式を使用する場合に必要になります。シーケンスリストとともに計算されるのは、変調方式を含む1つの波形セグメントだけです。この波形セグメントは、シーケンスリストで定義されたオフセット値とToAに従って処理され、再生されます。

パルスパラメータがランダムに変化する(パルス間のパルス立ち上がり時間ジッタなど)非方形波パルスを使用するシナリオの場合は、すべてのセグメントがあらかじめ計算されます。それでも、2つのセグメントの間のオフ時間、レベル変動、周波数オフセットなどはシーケンスリストで定義されるので、メモリを大幅に節約できます。このシーケンス設定法では、ユーザーがインポートした波形セグメントも使用できます。

また、リアルタイム信号を定義する制御ワードと、任意波形の定義済み波形セグメントを参照する制御ワードを混在させることもできます。この場合、R&S®パルス・シーケンサ・ソフトウェアが自動的に適切な処理を行います。

このソリューションを使用すれば、レーダー警戒受信機やホッピングトランスポンダーといったレーダー機器を、何十万個ものパルスが発生する現実的なシナリオでテストすることが、これまでよりはるかに容易になります。ファイルサイズが小さく、計算時間が短いため、便利に使用できます。ユーザーは、R&S®SMW200A 信号発生器の2 GHzまでの変調帯域幅をフルに利用し、優れたRF性能の恩恵を受けることができます。

主な利点

  • 最小限のメモリ使用量と計算時間で、きわめて長い信号再生時間を実現
  • 波形セグメントのリアルタイムシーケンス設定
  • 非変調方形パルス、リニア周波数変調、Barkerコードのリアルタイムシーケンス設定と信号発生
  • 高密度パルスシナリオのモデル化
  • 変調帯域幅をサポート:最大2 GHz