Analog / Digital Design and Test

ダイナミック再参照 – R&S®RTOオシロスコープを用いたμVレベルの測定

R&S®RTOオシロスコープの測定機能とチャネル演算機能を組み合わせると、個々の捕捉に対して毎秒100回以上の補正オフセット調整を実行できるため、振幅が1/100 div未満の信号をクリアに表示して再現性のある測定を行い、捕捉信号の安定度を長期にわたって保持できます。

課題

DCオフセットまたはドリフト、および低周波ノイズ成分を持つ小信号で、再現性がある高精度の長時間測定を実行します。

  • 大信号に「乗っている」小信号の変動
  • アベレージング回数が最小で、トレース間ノイズが小さい、高精度の低レベル信号測定
  • ダイナミックレンジの大きい信号に対応するために垂直軸設定を大きくした状態での、非常に高分解能で再現性のある測定
  • 視覚的な解析を容易にするために画面配置の一貫性を保持した、長時間測定
  • 高い信頼性と一貫性のあるトレース配置が求められる、非常に小さい信号振幅でのマスクテスト
  • 低周波ノイズとドリフト/オフセットを持つ測定値に対する短いアベレージング時間の使用
  • 低レベル信号での高確度のRMS測定
  • ベースライン変動と呼ばれる信号変化

背景

最新のオシロスコープには、アナログ帯域幅制限、デジタルフィルタリング、デシメーション、トレースアベレージングなど、高周波ノイズの影響の低減に役立つ、さまざまな定評あるツールが装備されています。

逆に、低周波ノイズ(熱、フリッカー、1/f)とドリフトの対処方法は限定されています。

オフセットは通常、特定のセンサ/プローブ/オシロスコープチャネルに対して一定の値です。この値は、チャネル演算式で用いられる値を使って(例:再スケーリング)、オートゼロ調整またはプローブのオフセット設定により、簡単に調整または補正できる可能性があります。ただし、オフセット値が小さすぎると、オフセット機能やオートゼロ機能ではオフセット電圧を完全にキャンセルできない場合もあります。さらに、オフセットは、ドリフトの影響を受けやすく、通常、ゲインまたはアッテネータの設定の変化による影響を受けます。

ドリフトは、対処しにくい現象です。ドリフトは、サンプリング時間または測定時間より大幅に長い期間にわたって発生する、ゼロポイントまたはゲインの任意の変化です。ドリフトには、確率論的成分とデターミニステック成分の両方が存在する場合があります。原因には、湿度、振動、コンポーネントの経年変化、電源変動(それ自体がこれらの要因の影響を受けます)、1/fノイズ、放射、磁気特性の変化などがあります。

  • あるセンサシステムが、20分間測定された信号振幅の5 %にあたる、正の熱起電力によるゼロポイントのドリフトと、1 Hzを大きく下回る1/fノイズを持つとします
  • 捕捉時間が1秒の場合、トレースアベレージング回数を60回にすると、1分間アベレージングされたことになります。この期間、ドリフトは0.25 %です。
  • すべてのアベレージング期間で、1分当たり0.25 %のドリフトの半分が除去されることになります。ドリフトが連続的である場合は、アベレージングによってドリフト誘起オフセットがフルスケール値の0.125 %だけ低減します。これは、20分後の合計ドリフト誘起オフセットの40分の1に過ぎません
  • 1/fノイズは低減されますが、1/fノイズには周波数の下限値がないため、除去されない可能性があります

このセンサシステムが熱平衡に達すると、アベレージングは、ゼロポイントのオフセット量に影響を与えなくなります。アベレージングによって補正できるのは、アベレージング期間より短い期間内に発生するドリフトまたはノイズのみです。

電子計測ソリューション:R&S®RTO オシロスコープを用いたダイナミック再参照

μVレベルの信号を捕捉するには、R&S®RTOの以下の利点を活用できます。

  • 低雑音フロントエンド
  • HDモード。50 MHzで最大16ビットの分解能を実現し、帯域幅と分解能を1か所で同時に制御可能
  • 0.02 divの振幅の信号に対する高精度のデジタルトリガ
  • 「インテリジェント」なシステムコンポーネントの測定と評価を可能にする、シリアルデータバスとパラレルデータバスのトリガ
  • 高性能のフロントエンドとシングルコアADCによる優れたリニアリティー(1 GHz帯域幅で7ビットを超えるENOB)
  • 次の機能を備えた強力なチャネル演算:
    • チャネル演算定義で測定結果を使用できる機能
    • トレースアベレージング(浮動小数点数値フォーマット)
    • FIRと移動平均による柔軟なデジタルフィルタリング
ダイナミック再参照の原理
ダイナミック再参照の原理
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原理

平均値測定が、ゲートを使って、すべての捕捉期間の内の安定している捕捉部分で実行されます。得られた値が、トレースから減算されます。

チャネル演算波形が、基準レベルにロックされます。このプロセスにより、捕捉期間より小さな周波数で、ドリフトとオフセットを含むノイズを効果的に除去します。

選択した基準が0 Vの場合は、チャネル演算波形は「グランド」を再参照します。基準レベルが0 Vでない既知のレベルの場合は、測定された基準レベル電圧は、単にチャネル演算定義に定数として追加されます。

再参照用のR&S®RTOのセットアップ

トリガ機能

測定信号のレベル変化が0.02 divを超える場合は、R&S®RTOは、安定したトリガを提供することができます。

信号の振幅が0.02 div未満であるか、大きくドリフトしている場合は、一般に、以下のような、必要な信号に同期する別のトリガソースを見つけることができます。

  • 電源電圧の変化
  • Enableまたはその他のコントロールラインの信号状態遷移
  • I2Cなどのシリアルバス経由でDUTに印加されるコマンド信号、またはR&S®RTOでトリガソースとして使用できる他の多くのインタフェースの1つ

基準測定セットアップ

通常、サンプリングされた信号に存在する可能性のあるノイズをフィルタリングするには、平均値測定を使用します。ゲートを適用して、波形の安定した部分を基準として選択します。

測定セットアップでは、最初に測定のソースチャネル、次に測定タイプ、最後にゲート期間を設定する必要があります。(注記:ソースチャネルがアクティブで、状態ボックスがオンになっていないと、ゲート選択が画面に表示されません。)

ゲーティングのスタート時間とストップ時間が、測定波形の必要な基準部分に一致するように調整されます。以下に示す例では、トリガ波形(Ch3Wfm1、緑色)のゼロ電圧セクションが、測定波形(Ch1Wfm1、黄色)のゼロ電流部分に対応しています。したがって、ゲートをどこに配置する必要があるかを簡単に確認できます。

サンプル信号および設定。
サンプル信号および設定。

チャネル演算のセットアップ

測定の定義が終了すると、チャネル演算計算式で定義を使用できるようになります。信号の安定部分をゼロポイントまたはベースラインとして使用する場合は、演算チャネル計算式(上記のチャネルおよび測定値を使用)は、次のとおりです。

Ch1Wfm1 – Meas1

チャネル演算の基本セットアップ。
チャネル演算の基本セットアップ。

非ゼロの基準が既知の値である(例えば、3.65 Vと測定された)場合は、計算式は以下のようになります。

Ch1Wfm1 – Meas1 + 3.65 V

チャネル演算計算式の入力。
チャネル演算計算式の入力。

チャネル演算の "Setup" タブで、"Vertical scale" > "Manual" と選択することをお勧めします。

"Mode" ボタン/ドロップダウンメニューを使用して、その他のシグナルプロセッシングオプションを選択することもできます。envelope/average/RMS

1/500 divの振幅の信号(メイン信号の400分の1)の測定。
1/500 divの振幅の信号(メイン信号の400分の1)の測定。

以下に、再参照の例を示します。チャネル演算の実効ズームファクターは500、測定信号レベルの振幅は1 divの500分の1です。

測定対象波形は、256 Hzの繰り返し信号です。200 μVのレベル変動部分が、2つの40 mVステップを持つ80 mV信号(画面下部の赤いトレース)に重ね表示されています。この例から、R&S®RTOによって広いダイナミックレンジが得られるため、1 Vフルスケール値のわずか0.02 %の信号を測定できることが分かります。

HDモード(20 kHz帯域幅)が使用されています。演算チャネルは、20×アベレージングに設定されています。

オシロスコープ画面(10 sの残光表示設定)に200 μV信号がはっきりと表示されます。オフセットは、400 divに相当します。残光表示から信号の安定度がわかり、測定統計データによって信号の標準偏差が44 μV(フルスケール値の約0.004 %、> 14ビット)であることを確認できます。

まとめ

ダイナミック再参照では、R&S®RTOで提供される広いダイナミックレンジを活用することにより、精度と使いやすさの向上、および長期測定誤差の低減が可能となります。

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