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6G - 将来の無線通信のビジョン

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Updated on 3月 14, 2024 🛈
Originally published on 2月 25, 2022

5Gネットワークはこの先何年にもわたって成長と発展を続けていくと見込まれていますが、すでに5Gの先を見据えた6Gのビジョンが示されはじめています。この6Gシナリオが現実のものになると、2030年代には、驚くような通信のワンダーランドが実現します。ローデ・シュワルツは、デジタル無線通信時代の幕開けから電子計測器のトップメーカーとして、世の中に製品を提供してきました。これからも、ローデ・シュワルツは第6世代無線通信のビジョンの実現に貢献するパートナーとして、業界を支えて続けていきます。

必要なのは高速化だけなのか?

LTE規格が登場したことで、ほとんどのモバイルユーザーのニーズはすでに満たされています。数百Mbpsのダウンロード速度があれば、高解像度映像コンテンツのストリーミングや、大きなファイルのダウンロードを数秒で問題なく行うことができます。すでに全国のさまざまな場所で提供されている5Gでは、利用可能な速度が大幅に向上しており、個人ユーザーにとってそれ以外の利点はほとんどありません。しかし、5Gの次の段階に向けた構想は以前から存在します。技術的に進歩した(今後さらに発展と改良が見込まれる)5Gシステムでも対応できないニーズが存在し、このことが5Gの次の段階に向けた構想を牽引しているのでしょうか。

この疑問は、2018年9月にある2人の執筆者によって提示されました。*) それ以来、このトピックは驚くほどの注目を集めるようになりました。当初は専門家が意見交換を行うトピックの1つでしたが、その後、6Gはテクノロジーと産業の「巨大政策」へと発展し、世界各地で多額の研究開発助成金が支給されるようになりました。現行のテクノロジーの可能性と、現在開発中または近く実現が見込まれるテクノロジーの可能性について詳細な検討が行われ、これまで可能だったあらゆるテクノロジーを大幅に凌駕するビジョンが具体化しました。

*) Klaus David氏、Hendrik Berndt氏:『6G vision and requirements: Is there any need for beyond 5G?』IEEE Vehicular Technology Magazine, Vol. 13, Issue 3、2018年9月

6G

6G:SFから現実に。将来の無線通信に向けて。

人と人とのコミュニケーション

すべての始まりは、30年以上前に遡ります。アナログの第1世代(1G)は1950年代まで遡りますが、これに続いて、最初の世代のデジタル無線通信が1990年代初めに姿を現しました。欧州のGSM(Global System for Mobile Communications)の2G規格は主要な輸出品になりました。これは、ローデ・シュワルツのGSMシステムシミュレータも同様です。このシステムは今でも無線通信の草分けとみなされています。

最初の世代のデジタル無線通信は、純粋に音声電話システムとして設計されました。テキストメッセージの送信のような簡単なデータサービスも、後付けで追加されたものです。インターネットが急成長したことで、インターネットへのモバイルアクセスへのニーズも急速に高まりました。そのため、2001年に開始された3Gと呼ばれる次の世代では、データアプリケーションが要求仕様の重要な要素でした。しかし、3Gシステムには、データトラフィックの急増に対応するのに必要な容量がないことがすぐに明らかになりました。次の世代の4Gでは、当然ですが同じ間違いを繰り返す訳には行きません。継続的なアップデートを通じて長期的なニーズに対応できるように、LTE(Long Term Evolution)が開発されました。この規格に基づいた最初のネットワークは2010年に登場しました。これは今でも無線通信システムを支える中心的な存在です。

4Gまでのすべての規格は、人間を中心とした通信を対象としていました。情報を高速に取得すること(ダウンリンク)が重視され、HDビデオストリーミングがキラーアプリケーションとみなされていました。4Gはこの点に関しては十分なものでした。さらなる発展を目指す要因は、まったく別の方向から現れました。

マシン間でのコミュニケーション

この間にも、さまざまな産業で、LTEでは対応できない機能を備えた非常に高性能な無線通信インフラを必要とするシナリオの開発が始まりました。例えば、インダストリー4.0は、エンドツーエンドの信号通過時間がミリ秒レンジの極めて信頼性の高い無線リンクに基づいています。共通のタスクを同調してフルスピードで実行するように設計されたマシンには、マシンの動作速度に対応できるデータインフラが必要です。これは通常のケーブル接続では問題になりませんが、無線を使う場合は難しい課題です。しかし、インダストリー4.0の特徴である柔軟性を確保するには、無線は不可欠です。

コネクテッドファクトリーには、マシンの動作に対応できるデータインフラが必要です。ローデ・シュワルツは、自社の生産工場内に5Gキャンパスネットワークを構築しました。これにより、インダストリー4.0の実際のシナリオでお客様向けの実装の最適化を図ることができます。

トラフィックと交通輸送は、無線通信の新しいアプリケーション領域です。車両は、他の無数の道路利用者と、道路、交通信号、その他のインフラ設備を共有します。安全上重要な状況が数多く存在するため、高速で信頼性の高い信号伝送が不可欠です。ローデ・シュワルツの電子計測ソリューションを利用することで、コネクテッドカーの路上での安全性と効率性を確保することができます。

スマートシティが発展していくなかで、無線通信を使用するスマートホームアプリケーションには独特の要件が求められます。コネクテッドメーターや身の回りにある機器の場合、運用とパフォーマンスだけでなく、バッテリー寿命が極めて重要です。そのため、通信の頻度が少なく、ごくわずかなデータで運用できるテクノロジーが必要です。ローデ・シュワルツのIoTテストソリューションは、家庭内やビル内の無線ネットワークの安全性と信頼性を高めるのに役立ちます。

交通輸送部門では、これまでにない無線通信の新しいアプリケーション領域が現れています。レベル5への道のりはまだ長く、自動運転は文字通りの意味での自動運転からはほど遠いものです。結局のところ、車両は、他の無数の道路利用者と、道路、交通信号、その他のインフラ設備を共有しなければならず、こうしたやり取りを行うには高度なオーケストレーションが必要です。このため、車両は他の車両に加えて、道路沿いに設置された機器や交通管制センターと接続しなければなりません。緊急ブレーキなどの安全上重要な状況が数多く存在するため、高速で信頼性の高い信号伝送が最も重要な課題です。

一方、スマートシティやスマートホームの無線アプリケーションでは、求められる要件がまったく異なります。電力量計や廃棄物容器などのデバイスはセンサと制御素子を備えており、遠隔から照会や起動などを行うことが可能です。目標は、これらのデバイスに人手を使ってアクセスしなくても済むようにし、取得したデータに基づいてアクションをトリガできるようにすることです。必要なのは散発的な無線通信のみで、データ量もごくわずかです。代表的なシナリオでは、バッテリー駆動の何千台もの類似のユーザーデバイスが使用されます。このような低パフォーマンスアプリケーションには、高パフォーマンス用途向けに設計されたLTEのような無線システムは明らかに過剰です。そればかりか、消費電流の低減のような特殊な要件を満たすことができません。

5Gの構想に影響を与えたのは、このようなアプリケーションでした。5Gでは、主要な関心が人間からデバイスやマシン、つまりモノのインターネット(IoT)にシフトしました。

5Gでは、ネットワーク接続の主眼が人間からデバイスやマシンへ変化しました。さまざまな使用状況に対応した3つのアプリケーショングループが存在します。高度モバイルブロードバンド(eMBB)では、従来の無線アプリケーションがLTEよりもはるかに優れた性能で利用できます。大規模マシンタイプ通信(mMTC)は、センサネットワークのような省電流型の低パフォーマンスアプリケーションに対応したものです。また、超高信頼低遅延通信(URLLC)は、自動運転やマシン間通信のような可用性と信号通過時間の保証が必要なリアルタイムアプリケーションに重点を置いたものです。

何かが足りない?

5Gはすでに多くの国で開発が進んでいます。しかし、仕様策定を行う3GPPによる標準化でも、当初は高度モバイルブロードバンド(eMBB)アプリケーショングループに重点が置かれていました。工場、交通輸送、IoT接続では、期待されていたような大きな進展はまだ実現していません。しかし、5Gのすべての技術オプションを適切な形で利用したとしても、5Gでは十分に対応できないようなアプリケーションがすでに現れはじめています。また、5Gでは、異なる複数の開発段階が計画されています。3GPP標準規格のRelease 18(最終バージョンは2024年の予定)からは、5G-Advancedという名称が使われることになっています。正式な合意が形成されている訳ではありませんが、業界ではすでに一部の性能特性が次世代ネットワーク(6G)によって実現されると考えられるようになっています。これまでの世代交代のパターンから、6Gの実現は2030年頃が見込まれています。

確かに、2G以降は10年サイクルで世代交代が続いており、今後もそれが続くと考えるのが自然なことのように思われます。また、以前の世代は技術的にも異なっており、例えば、チャネルアクセス方法(無線チャネルの使用方法)に違いがありました。チャネルアクセス方法、データ符号化の種類、使用可能な伝送帯域幅は、システム性能に大きな影響を及ぼします。電子計測器メーカーであるローデ・シュワルツは、当初からこのテクノロジーをサポートし、技術形成に関わってきました。

5G以降の技術的進歩は、さまざまな業界の夢のような構想によって牽引されてきました。未来のシナリオがさまざまな方向から現れ、これらが融合して魅惑的な光景を描き出しています。この光景を現実のものにするには、中期的には実現可能でも、まだ今はほとんど手に入らないテクノロジーが必要になります。これらのすべてのテクノロジーのインタラクションを総称して「第6世代無線(6G)」と呼ぶようになるでしょう。しかし、この6Gという言葉はすでに、目標とするビジョンの全体像を語るだけに留まらなくなっています。

ホロデッキのデジタルツイン

Facebookの創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、昨年秋に同社の将来のビジョンについて講演を行いました。同社のマスタープランでは、現在のソーシャルメディアプラットフォームを長期的に「メタバース」に転換していくことを打ち出しています。仮想現実(VR)と拡張現実(AR)をエクステンデッドリアリティ(XR)へと発展させ、現実世界と仮想世界を融合して人工世界を作り出そうとしています。ユーザーは、エクステンデッドリアリティ空間にホログラフで映し出したデジタルパーソナリティやアバターとして具現化されるため、人工環境の中にいながらにして、チャットルーム、ゲームの世界、ショッピングモールをシームレスに切り替えることができます。これがどのような仕組みになるのか、詳細は明らかになっていませんが、VRグラスが重要な役割を果たすことは確かです。

もちろん、これはすべてが新しいという訳ではありません。VRグラスは何年も前から市販されており、主に産業用アプリケーションとしてすでに使用されています。例えば、専門要員がVRグラスを使用して、現実のイメージに取り付けるパーツの3Dモデルを投影し、パーツの取り扱い方法に関する情報をそこに並べて表示します。VRグラスを身に付けることで、ホログラフ投影を本物と同じように手動で扱うこともでき、ホログラフ投影に触ったり、操作したりすることができます。このようなシステムを何百万という数で提供し、すべての人が安価に利用できるようにすることが、6Gの指針となるシナリオの1つです。

今では、現実世界と仮想世界を融合するのに、拡張現実グラスがすでに使用されています。6Gのビジョンでは、この体験が完全な没入体験に拡張され、ユーザーはあらゆる感覚を取り込んだ現実感のあるエクステンデッドリアリティ空間に入ることができるようになります。

現実世界と仮想世界が融合したエクステンデッドリアリティには、当然ながら他にも数多くの重要なビジョンが存在します。長期的な目標は、現実と同様の体験ができる新しい世界に完全に入り込めるようにすることです。このためには、人間の視覚をフルに刺激できる3次元の光学解像度、適切な音響環境、すべての人工オブジェクトの瞬時の反応(触覚インターネット)、およびこれらすべての物の信頼できる表現といった要素が必要になります。

しかし、重要なのは、これらのオブジェクトの一部が現実世界の物と対応していることです。これらの「デジタルツイン」は、現実世界の物やマシンの対話型の仮想表現で、メタワールドから操作することができます。距離がどんなに離れていてもマシンを操作できるようになれば、仕事のあり方に幅広い影響が生じる可能性があります。都心にいる必要性が少なくなれば、地方の復活といった波及効果が生じる可能性もあります。

6Gは遠隔医療のまったく新しい可能性を生み出します。システムのリアルタイム性能と高データレートにより、治療対象臓器のホログラフ表現(デジタルツイン)を用いて遠隔からの細かな介入が可能になります。

これらは6Gとどのような関係があるのでしょうか。個々のユーザーがこのような人工世界を個人で容易に利用できるようにするのに必要なコンピューティング能力は、VRグラスの能力をはるかに上回るものです。普通の眼鏡と同じように上品で目立たないグラスが必要であればなおさらです。外部のコンピューティング能力も必要になります。これには、ユーザーのポケットに入るスマートフォンがあれば十分かもしれません。これで能力が足りない場合には、近くにあるコンピューターに処理を預けたり、クラウドサーバー(エッジ、フォグ、クラウドコンピューティング)にタスクを転送したりすることができます。

ここで必要になるのが6Gです。ステレオ音声付きの8K以上のビデオ解像度で膨大な量のデータをグラスに転送する場合、リアルタイムで自然な反応を可能にするには、数百Gbpsの伝送容量と10分の1ミリ秒の信号通過時間が必要です。5Gはこのような性能を発揮するような設計になっていません。人工知能(AI)を利用してさまざまな6Gサービスに合わせてコンピューティング能力をインテリジェントに配備することも、ネットワークの役割になります。実際、6Gネットワークでは、AIがあらゆる場所で使用されるようになります。

6Gの技術的KPI

6Gでこれらの難しいアプリケーションに対応していくには、無線ネットワークの重要な性能パラメータをすべて足並みを揃えて強化する必要があります。6Gでは、以下の主要性能指標(KPI)が検討されています。対応する5Gの数字を並べて示しています。

KPI 5G 6G
ピークデータレート 20 Gbit/s 1 Tbit/s
使用可能な平均データレート 100 Mbit/s 1 Gbit/s
信号レイテンシー 1 ms 0.1 ms
最大チャネル帯域幅 100 MHz 1 GHz
信頼性(エラーのないデータブロック) 99,999 % 99,99999 %
最大ユーザー密度 10^6/km^2 10^7/km^2
最大ユーザー速度 500 km/h 1000 km/h
ポジショニングの精度 20 cm~数m(2D) 1 cm(3D)

これまでと異なる領域への広がり

広い範囲をカバーすることは、無線通信の世界における共通のテーマです。しかし、6Gでは、地図上の空白地帯はもはや問題ではありません。反対に、地球上のあらゆる場所が、没入体験をサポートする高性能無線通信の対象となります。これには、地方や住宅地域以外だけでなく、さまざまな場所が含まれます。このビジョンには、水中の世界も含まれます。人やマシンが存在する場所であればどこでも、高速無線通信を介してアクセスできる必要があります。このためには、電波が吸収される水中での光信号伝送のような新しいテクノロジーだけでなく、幅広い地上インフラも必要になります。これには、人工衛星群の他に、飛行船やドローンなどの飛行型プラットフォームなどが含まれます。

6Gでは、水中の世界もグローバル通信ネットワークに接続されます。電波は水に吸収される性質があるため、6Gでは水中可視光通信(UVLC)が使用されます。

真のモノのインターネット

モノのインターネットという概念はすでに広く知られています。モノのインターネットは、現実世界でも徐々に具体的な形として現れつつあります。特に産業分野や交通輸送分野では、5Gによってその発展がさらに加速するでしょう。スマートホームやスマートシティアプリケーションもモノのインターネットの発展に貢献するはずです。しかし、そうなった場合でも、あらゆるものを含む包括的な通信について語るのは時期尚早です。これは、6Gのビジョンに含まれるものです。6Gには、その技術的構成と容量から考えて、想像しうるあらゆるカテゴリーの任意の数のデバイスを統合できます。個人、企業、公共に関わるあらゆる領域で、私たちが接触する必要があるあらゆるものや、私たちの生活に関わるあらゆるものが、接続の対象になります。例えば、橋や幹線道路などもそうです。これらは現在どのような状況になっているのでしょうか。いつどこで修理が必要になるのでしょうか。無線センサが埋め込まれていれば、必要な情報を得ることができます。小売や物流分野でよく使用されているRFIDタグは、短い距離でしか読み取りができません。特殊なセンサを備え、広い範囲をカバーしていれば、食料品の品質をモニターして関連するレポートを送信するといったことが可能になります。

最後の例は、現在行われている研究の複数の領域に関連するものです。小さな可動物体をモニターして必要なときに取り除けるようにするには、正確な位置を知る必要があります。他の多くのアプリケーションでも、通信相手の位置に関する情報が必要になります。これは、6Gサービスが一般に局所的に提供されるためです。技術的な理由から、6Gでは、電波エネルギーを離れた場所にある特定の相手方を標的にするために、高度に収束された指向性無線ビームが使用されます。このため、6Gネットワークでは、無線ネットワークに加えて、3D空間内でセンチメートル単位の精度で無線ユーザーの位置を特定できるセンサネットワークを使用します。この用途に使用する技術はまだ研究段階ですが、アクセスポイントでのレーダーテクノロジーの利用が1つの可能性として考えられます。

無線センサを大規模に配備する際には、エネルギーの供給方法も問題になります。これらのデバイスの数が膨大であることと、小型化が進んでいることを考えると、電池交換を行うのは現実的ではありません。しかし、多くのアプリケーションはときに何年もの長期にわたる使用が想定されているため、センサは独自にエネルギーを確保する必要があります。これに関連する専門用語に、ゼロエネルギーデバイスやエネルギーハーベスティングといったものがあります。最新のRFIDセンサはこの方法で機能するように設計されていますが、近くにある読み取り装置から電磁エネルギーが直接供給されています。6Gセンサは、このような外部供給なしに、局所的なエネルギー源(熱、光、動きなど)から電力を得る必要があります。6Gに関する他の多くのトピックと同様に、この領域の研究はまだ初期の段階です。こうした状況でも、ローデ・シュワルツの電子計測器はすでに、デバイスのエネルギー消費パターンを把握し、ローパワーデザインを実現するのに貢献しています。

ネットワーク機器メーカーであるEricssonによる設計研究では、ゼロエネルギーデバイスが文明領域以外にも恩恵をもたらす可能性があることが示されています。例えば、6G IoT無線センサを使うと、生態系データを測定して処理センターに転送することができます。

6Gはあらゆるものを対象としたモノのインターネットの基盤となるだけでなく、これまでと異なる新たな種類のインターネットでもあります。私たちは従来のインターネットを(コンピューター)ネットワークのネットワークと呼んでいますが、6Gは無線ネットワークのネットワークと表現することができます。今日の融通の利かないモノリシック構造の無線ネットワークは、絶えず変化するヘテロジーニアスネットワーク環境(「有機的ネットワーク」)へと置き換わっていきます。このような形で、現在展開されている広い範囲をカバーするマクロセルに加えて、個別の部屋や自動車をカバーする「アトセル」や「ゼプトセル」など、企業、個人、公共のあらゆる規模のサブネットワークが相互接続されるようになります。

個別のネットワークを全体のネットワーク構造に自動的にドッキングできるようにするには、できるだけ多くのネットワーク機能を仮想化することが求められます。このためには、これらの機能を抽象的に記述する必要があります。これは5Gでもある程度実施されています。6Gネットワークの機能ブロックは、マルチベンダーをサポートして抽象化を実現し、規格に基づいてやり取りを行う必要があります。ローデ・シュワルツはO-RAN Allianceに参画し、この領域での標準化と相互運用性の促進に貢献しています。5Gの場合もそうでしたが、ワールドワイドでの6Gテクノロジーの標準化は非常に重要です。

自動運転に必要なすべての要件を満たすには、6Gのデータレートとレイテンシーが必要です。6Gの視点から見ると、自動車はそれぞれが全体のネットワークにドッキングされた小さな無線ネットワークのようなもので、この小さな無線ネットワークで車両や乗員向けの無線サービスの管理が行われます。

あらゆるものがウルトラ級に

テクノロジーの夢を語る人々は6Gのシナリオを描く際に、一切の制約を設けようとしません。可能性は無限なのです。5Gに必要なのは、3つのアプリケーショングループ(eMBB、mMTC、URLLC)だけですが、6Gのビジョンにはさらに多くのグループ(およびグループの組み合わせ)が必要になります。新たに考案されたグループには、最上級の名前が好んで付けられています。シンプルにすべての性能特性の頭に「ウルトラ(超)」が付けられています。用語は今後も変化を続け、将来的に標準化が行われることになりますが、技術記事では、高度拡張ウルトラモバイルブロードバンド(feUMBB)、超高度センシング低遅延通信(uHSLLC)、超高密度データサービス(uHDD)、超高エネルギー効率(uHEE)、超高信頼性およびセンシング(uHRS)、超高信頼性およびユーザー体感(uHRUx)、超低遅延信頼性およびセキュリティー(uLLRS)などの用語が使われています。

当然の疑問ですが、ここで説明してきたようなSFの世界は、考案者たちが提唱するように本当に実現に近づいているのでしょうか。多くは、研究者たちが必要な期間内に目標に到達して、一連の製品を生産できるようになるかどうかにかかっています。6Gの市場規模や政治的側面は言うに及ばず、今後数十年にわたって重要なテクノロジーである6Gに世界中の関心が集まり、多額の資金が提供されることを考えると、6Gに向けた取り組みと熱意は十分大きなものであるように思われます。

6Gの研究領域
周波数

5Gでは、個別の通信に初めてミリ波帯(>20 Ghz)が使用されています。6Gではさらに進んで、比較的未開拓のテラヘルツ帯(300 GHz~3 THz)が利用されるようになります。また、可視光や赤外線も必要に応じて使用されます。

これらの高周波帯は、目標とする非常に高い伝送レートを実現する唯一の方法です。ローデ・シュワルツは、フラウンホーファーの研究所であるHHIおよびIAFと協力して、2019年から100 GHz~320 GHzの周波数レンジで研究を行ってきました。

アンテナ

このような短波長に対応した高い周波数では、アンテナのサイズがミリメートル領域になります。基地局では、個別の指向性ビームを用いて何百もの移動局を同時にカバーするため、最大60,000基のアンテナを組み合わせてアレイを構成します。特定のユーザーにピンポイントで照準を合わせるため、インテリジェントな反射面も検討されています。これらをビルの壁面に配置することで、曲がり角での無線信号の送信などが可能になります。

ローデ・シュワルツは、ライプニッツ研究所(Leibniz Institute for High Performance Microelectronics)と協力し、業界に先駆けて、110 GHz~170 GHzの周波数レンジでの運用を想定したトランシーバーモジュールでアンテナの2Dおよび3D試行特性の詳細な測定を行いました。

人工知能

AIは6Gの重要な構成要素になります。業界関係者は、AIがなければ、6Gネットワークは一般に利用できるようにならず、そもそも機能しないと考えています。6Gネットワークは複雑すぎて、従来の設計手法や管理手法では対応できません。

AIは技術的コンポーネントで使用されるだけでなく、ネットワークプラニングやモニタリングでも使用されます。究極の目標は、コスト、エネルギー、スペクトラム、および運用効率面で自己最適化できるゼロタッチネットワークを実現することです。

仮想化

6Gの主要なネットワークコンポーネントはすべて、標準化された抽象的な機能を介して定義し、アドレス可能である必要があります。こうすることで、特定の技術的構成に対応するための余裕を確保しながら、異なるメーカーの製品を組み合わせて使用できるようになります。

ネットワーク仮想化に向けた重要なステップの1つに、オープンRAN(O-RAN)があります。これは、これまで独自仕様だった無線アクセスネットワーク(RAN)のコンポーネントにオープンインタフェースを導入する取り組みです。ローデ・シュワルツは、O-RAN Allianceにすでに参加しています。

バッテリーレスセンサ

モノのインターネットでは、無数の小型センサが数として最も大きな割合を占めることになります。これらの小型センサは、エネルギーハーベスティングを使って電力を得ながら、長期にわたってメンテナンスフリーで稼働する必要があります。

統合型の無線機、センサ、コンピューターネットワーク

6Gは単なる無線ネットワークに留まりません。統合された位置決め機能により、センチメートル単位の精度で無線ユーザーの位置を特定することができます。また、6Gネットワークでは、無線ユーザーの近く、または離れた場所のデータセンターにある大規模な分散型のコンピューティング能力を利用して6Gサービスを提供することができます(エッジ、フォグ、クラウドコンピューティング)。

データインテグリティー

6Gネットワークは5G以上に企業や産業のバックボーンとなります。数えきれないほどのビジネスプロセスやサービスが、6Gネットワークを利用することになります。そのため、データセキュリティーは極めて重要です。絶対的な信頼性でユーザーの認証を正しく実行する必要があります。

すべての接続に暗号化が必要になります。データインテグリティーを確保するため、ブロックチェーン技術が集中型の構成を回避するための手段として検討されています。

エネルギー効率

データ通信が急増すると、これに伴ってエネルギー消費も増加します。これに対処するには、伝送ビットあたりのエネルギー消費を少なくすることで、ネットワークのエネルギー効率を高める必要があります。

競争はすでに始まっている

6Gに関する検討は数年前に始まったばかりですが、すでに産業界、研究機関、政界でさまざまな動きが顕在化しています。世界各地で研究構想の立ち上げが行われ、助成金が提供され、協定が構築されました。政治家たちは、国全体の経済発展は言うまでもなく、6Gシステムへの対等な参画が競争力を左右する可能性があることを理解しています。そのため、依存状態を回避することが、考慮すべき重要な事柄の1つになっています。例えば、日本と米国は国のトップレベルで、6Gの研究に45億ドルを共同で投資することに合意しています。

欧州では、Hexa-Xと呼ばれる6Gフラッグシッププロジェクトが立ち上げられました。このプロジェクトには、9か国の組織や団体が参加しています。それとは別に、ドイツ連邦教育研究省(BMBF)は、2025年にかけて7億ユーロの資金を提供する予定です。このうち、2億5,000万ユーロはすでに資金申請を提出している国内の4つの研究拠点に近く配布される予定で、これにはローデ・シュワルツも参加しています。韓国は、2026年に最初のフィールドテストを行うという野心的な計画を推進しており、約1億9,500万ドルの投資を計画しています。中国はどうでしょうか。言うまでもありませんが、次の世代のテクノロジーが到来しつつある状況で、中国が5Gで獲得した優位な立場を放棄しようとするはずがありません。中国の科学技術部は、他の省庁や政府機関と連携して、できるだけすみやかに6Gの配備に備えるために必要な国家リソースの調整を行っているところです。

デジタル無線通信の時代が始まった当初から、ローデ・シュワルツは電子計測器のトップメーカーとして業界を緊密に支えてきました。ローデ・シュワルツの製品と技術は、さまざまな6G研究プロジェクトですでに活用されています。6Gに必要な測定機器は、段階的に提供されていく予定です。

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