離陸間近な無線のデジタル化

テクノロジーの実用化

離陸間近な無線のデジタル化

LDACSは近い将来、民間航空で広く用いられているVDLモード2に代わって、国際標準となる見込みです

マガジン概要に戻る
Updated on 3月 14, 2024 🛈
Originally published on 4月 01, 2023

Thomas Bögl(ローデ・シュワルツ)

ローデ・シュワルツは、研究パートナーとともに、LDACSデジタルデータ伝送テクノロジーの開発に取り組んできました。これは、航空会社や通信サービスプロバイダーにとって、まったく新しいユースケースの始まりです。

テクノロジーの進歩とは、必ずしもアナログ技術をデジタル技術で置き換えることではありません。民間航空の世界には、テクノロジーがどのように進歩するかを示す顕著な例があります。パイロットと管制塔の間の音声通信には、1948年以来の両側波帯振幅変調(DSB-AM)が引き続き用いられています。このアナログVHFテクノロジー(周波数レンジ:118 MHz~137 MHz)をデジタル音声通信に置き換えることは誰も望んでいません。結局、アナログ無線には明らかな利点がいくつかあり、それらは現在でも重要性を失っていないからです。その例としては、遅延の短さ、すべての参加者によるアクティブなモニタリングなど、デジタル無線が現在でも代替できないいくつかの機能が挙げられます。

データ伝送波形については事情が異なります。1990年代以降、航空無線は拡張され、音声通信だけでなくデジタルデータ伝送の方法が加わりました。最も広く用いられているのはVDLモード2です。

現時点での航空無線のデジタル化とは、古いデジタルデータ伝送方法を、もっと性能の高い新しい技術に置き換えることを指します。音声通信には引き続きアナログ技術が用いられる一方で、デジタル化によってスペクトラムへの負荷の一部を軽減できます。このように、航空交通管制の世界では、アナログ音声通信とデジタルデータテクノロジーの共存により、きわめて高い効率、信頼性、運用の安全性が、経済的かつ将来にも対応した方法で実現されています。

狭いVHFスペクトラムでの混雑した無線通信

VDLモード2は、航空管制サービスプロバイダー(ANSP)によって提供されています。ANSPは、民間部門のモバイルネットワークプロバイダーに相当する役割を果たします。VDLモード2もVHF周波数バンドで動作するため、利用可能なスペクトラムをデータ伝送と音声通信で分け合う必要があります。使用可能な帯域幅が比較的狭いため、VDLモード2のデータ伝送速度は毎秒数キロビット程度です。

LDACS:Lバンドへの移行

そこで登場したのが、新しいLバンドデジタル航空通信システム(LDACS)です。LDACSのデータスループットは、VDLモード2に比べて最大200倍高速です。名前からわかるように、鍵となるイノベーションはLバンドでのデータ伝送です。LDACSは、航空無線専用に予約されている周波数バンドを利用します。LDACSは干渉抑圧アルゴリズムを採用しており、帯域外エミッションを最小化するように最適化されているので、Lバンドで動作する他の航空機器と問題なく共存できます。

騒音防止区域の管理

将来的には、騒音防止区域付近を飛行するためのナビゲーションデータを、LDACSデータリンク経由で自動的に送信することができます。従来、この送信は音声通信で行われてきました。

新しい魅力的な航空サービス

現代の航空機には、セキュアなデータ交換が不可欠です。それなしには、航空交通の制御は不可能です。LDACSは、暗号化で保護された高データスループットを高い信頼性で実現します。これにより、運航乗員が航空機運用を効率的に計画するために航空会社が必要とするデータリンクなど、さまざまな新しいアプリケーションが可能になります。現在は、飛行中の航空機の数が大幅に増えているため、航空交通管制官は、空域内の状況の変化に応じて飛行経路を調整するため、新しいナビゲーションデータをより迅速に配布できる必要があります。

LDACSの最初の新しいアプリケーションの1つは、データリンク機能を利用して、既存のATCシステムの低速のVHF無線リンクを、高速なLDACSリンクによって拡張するか完全に置き換えることです。これにより、新しいシステムを購入しなくても、データ伝送速度が即座に明らかに向上します。LDACSのもう1つの利点は、今後の市場での発売までの道筋がシンプルであることです。

信頼性の高いセキュアなLDACSデータ伝送は、環境に優しい新しいナビゲーション方法にも用いられるはずです。この方法では、航空機のルートを選択するために、3次元空間内の精密な座標を、厳密に定義された制限時間内に届けることが要求されます。空港周辺の騒音防止区域を回避するために航空機のルートを動的に変更する必要がある場合には、4次元軌跡の概念が使用できます。

長期的な目標は、出発空港から目的地までの飛行経路全体を、4次元軌跡だけを使って管理することです。これにより、空域利用の効率性と環境適合性を大幅に高めることができます。

LDACSのタイムライン

LDACSの開発では、4つの主要な研究プロジェクトが中心的役割を果たしています。それらはタイムラインの下に記されており、詳しい解説はこの後の情報ボックス内にあります。

航空規格の重要性

航空機に搭載される他のすべてのシステムと同様、トランシーバーは国際規格にも従う必要があります。搭載されるテクノロジーの信頼性と、すべての航空交通安全基準への適合性を確認するため、これらの規格に基づいて飛行許可(承認書)が発行されます。承認プロセスは通常きわめて煩雑で、10年から20年程度かかります。ほとんどの企業はそんなに長くは待てないので、規格化プロセスのできるだけ早い段階で業界が参加できるよう、政府による調査イニシアチブが実施されています。

ドイツ連邦経済・気候保護省は、LDACSを対象とする航空研究プログラム(LuFo)を立ち上げました。ローデ・シュワルツはこのプログラムに参加しており、ドイツ航空宇宙センター(DLR)などのプロジェクトパートナーと協力して、LDACSテクノロジーを共同開発しています。

4つの主要な研究プロジェクト

連邦経済・気候保護省(BMWK)が後援する4つの連続する研究プロジェクトは、民間航空向けのLDACSデジタルデータ伝送テクノロジーの開発を大きく進歩させる役割を果たしました。

ICONAV:統合型通信およびナビゲーション

ドイツ航空宇宙センター(DLR)や他のプロジェクトパートナーとともに、ローデ・シュワルツは、2012年から2015年にかけて、ラボテスト用の機能的実証システムの開発にコンソーシアムで取り組みました。

MICONAV:統合型通信/ナビゲーション航空電子工学への移行

続くMICONAVプロジェクトでは、運航中の動作の信頼性の証拠が得られました。2016年から2019年にかけて、きわめて正確なナビゲーション機能を備えた、航空に適する実証システムが開発されました。その後のラボテストと飛行テストでは、プロジェクト用に特別に設置された4つのLDACS基地局へのログオン/ログオフと、2つの地上局間のハンドオーバーのテストに成功しました。航空機と地上局の間の通信は、高高度の飛行中、着陸中、離陸中、空港での地上走行中といったさまざまな状況で、同じ信頼性で動作しました。

IntAirNet:航空機間ネットワーク

このプロジェクト(2019~2022年)では、航空機間の直接接続が可能になるように、波形の機能が拡張されました。これにより、LDACSは地上インフラに縛られなくなり、洋上の航空経路でも使用可能になりました。

PaWaDACs:デジタル航空通信への準備

PaWaDACsプロジェクトは2022年から行われています。その目的は、実証用機器を小型化するとともに、ドイツの航空管制サービスプロバイダー(DFS)が運用する2つの場所に現実的なテスト設備を準備することです。この作業が完了すると、将来のLDACSシステムに必要な重要な技術的ステップが確実に用意されたことになります。すなわち、民間航空用の新製品開発のための堅固な基盤が得られるのです。ローデ・シュワルツは、地上局用の機器を供給するだけでなく、航空機に搭載するソリューションをお客様に提供できるようになります。

いくつかのワーキンググループが、国際民間航空機関(ICAO)と協力して、飛行承認規格の作成と実装に取り組んでいます。カナダに本部があるICAOは、民間航空分野の最上位の規格作成機関です。その役割は、規格化プロセスでの最も重要な文書の審査と統合です。

最近開始されたLuFoプロジェクトであるPaWaDACs(情報ボックスを参照)によって技術的基盤が確立された結果、LDACSの地上機器と航空機搭載機器の製品開発は、2025年ごろにも開始される見込みです。製品の発売は2028年と予想されています。LuFoプロジェクトに早くから関わってきたローデ・シュワルツは、LDACSサプライヤーの間での市場をリードするための競争で優位な立場にあります。

その他の記事

Thomas Bögl

テクノロジーの実用化

ニワトリか卵かの問題を解決

Thomas Bögl(テクノロジー/研究ディレクター)インタビュー

記事全文を読む
6Gに向けて

ナレッジナゲット

6Gに向けて

次世代のモバイル通信である6Gは、魅力的なアプリケーションだけでなく、持続可能性にも重点を置いています。

記事全文を読む
極寒の北極圏。過酷な環境で真価を発揮!

R&Sストーリー

EMC

極寒の北極圏。過酷な環境で真価を発揮!

ローデ・シュワルツの環境テストラボは、過酷な環境における製品機能を検証しています。

記事全文を読む