タイムドメインS(VSWR)による1 GHzを超えるEMCテストサイトの高速検証

R&S®ZNB ベクトル・ネットワーク・アナライザとR&S®HF907 ダブルリッジド導波管ホーンアンテナを組み合わせると、ANSI C63.25に準拠した高速で正確なTD SVSWR測定が可能となります。

課題

周波数レンジ1 GHz~18 GHzで放射性エミッション測定を行うためのEMIテストサイトは、受信信号に対する反射の影響を最小限に抑えるため、自由空間条件を満たす必要があります。実際に自由空間を実現するには、RF吸収材で完全に覆われたシールド筐体(全無響室、FAR)を使用します。

FARでのEMIコンプライアンステストでは、サイト検証により、受け入れ基準に適合するために必要な自由空間条件からどれだけずれているかを決定します。このサイト検証では、サイト電圧定在波比(SVSWR)を測定します。サイト電圧定在波比は、最大受信信号と、直接(対象)信号と反射信号間の干渉によって生じる最小受信信号との比です。受け入れ基準へのコンプライアンスを示す方法は、以下の2種類あります。

  • CISPR 16-1-4に準拠したSVSWR方法
  • ANSI C63.25に準拠したタイムドメインSVSWR(TD SVSWR)方法
VNAを使用したTD SVSWR測定
VNAを使用したTD SVSWR測定
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基本的には、どちらの方法も、アンテナペア間の一連の応答測定から構成され、同じ受け入れ基準、SVSWR ≦ 6.0 dBを使用します。CISPR方法の場合、アンテナの直接応答と反射間の位相関係を変更するため、2つのアンテナ間の距離を6回変更する必要があります。ANSIタイムドメイン方法の場合、アンテナの移動は不要です。この過程は、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)を使用した複素数伝送測定(S21)と周波数ドメインデータのタイムドメイン変換によって実現されます。

TD SVSWR評価

結果として、2つのアンテナ間のインパルス応答が表示されます。アンテナ間の直接応答は最短距離で届くと考えられるため、最も早いパルスはアンテナの直接応答です。テストサイトからの反射は、距離が遠いので遅れて到着します。このため、タイムゲーティングを使用して、アンテナの直接応答を反射から分離し、TD SVSWRを計算することが可能です。

ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®ZNB ベクトル・ネットワーク・アナライザにR&S®ZNB-K2 タイムドメイン解析オプションを搭載すると、ANSI C63.25に準拠してTD SVSWRを測定するための測定機能が得られます。検証レンジ1 GHz~18 GHzの場合、VNAを、スタート周波数500 MHz、ストップ周波数19.7 GHz、ステップ幅1 MHz、出力レベル0 dBm、帯域幅1 kHzの高調波周波数グリッドに設定します。

注記:タイムゲーティング処理の際、ウィンドウ関数の影響によってバンドエッジのデータの信頼性が低下することを考慮し、(必要な周波数の上下に)周波数レンジを追加する必要があります。

送信アンテナと受信アンテナの接続に使用するケーブルの両端で、フル2ポートVNA校正を実行します。ケーブルをアンテナに接続し、送信アンテナをターンテーブル上の最初の測定位置/偏波に置きます(図を参照)。

伝送測定を実行し、セットアップの感度を確認します。少なくとも、20 dBのS/N比を達成する必要があります。VNAのタイムドメインメニューでTD SVSWR測定機能をアクティブにします。

注記:デフォルトでHannウィンドウ関数が使用されます。アンテナの直接応答とアンテナに関連する任意のリングダウン時間だけがゲートスパンに入るように、ゲートスパンを設定します。

ZNB TD SVSWRの機器構成メニューと結果の表示
R&S®ZNB TD SVSWRの機器構成メニューと結果の表示
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注記:ゲートは、アンテナ間の直接的な時間応答を保持し、他のすべての応答を抑制する目的で使用します。タイムゲートの中心を主応答のピークに設定し、ピークを中心にしたゲートスパンを、アンテナのリングダウン時間の2倍の値に設定すれば十分です。R&S®HF907の場合、8 nsのゲートスパンを使用します。

水平面のTD SVSWR測定位置
水平面のTD SVSWR測定位置
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S21掃引を実行し、トレースをフォーマット済みデータとしてエクスポートして、さらに評価します。この手順を、全ての送信アンテナの位置と偏波に対して繰り返し行います。

注記:すべての位置F(フロント)、R(右)、L(左)、C(中心)を、テストボリュームの一番下から1 mの高さで測定してください。さらに、フロント位置を2 mの高さで測定します。ボリュームの直径が1.5 m以内であれば、中心位置はオプションです。

機能拡張された機能

タイムドメイン方法を使用すると、サイト検証要件への準拠を実証できるほか、テストサイトに関する詳細情報も得られます。例えば、インパルス応答のタイムドメインビューを使用して、吸収材の追加や品質向上が必要な、FAR内の領域の位置を識別することができます。理想的なサイトでは、表示されるアンテナ応答は単一のパルス(アンテナ間の直接応答)です。そのため、大きな不要反射を容易に識別できます。さらに、自由空間では時間と距離は光の速度(cは約3×108 m/s)によって関連づけられるため、アンテナからの距離を表示することができます。

まとめ

タイムドメイン解析機能を備えたR&S®ZNB20 2ポート・ベクトル・ネットワーク・アナライザとR&S®HF907 ダブルリッジド導波管ホーンアンテナを組み合わせると、ANSI C63.25に準拠したTD SVSWR方法を使用してサイト検証測定を高速かつ正確に実行するための最適なソリューションを構築できます。

ANSIタイムドメイン方法を使用する理由は、1 GHzを超えるテストの場合、EMCテストサイトのサイト検証時間がCISPR方法を使用するよりも短くなるほか、サイトや電波暗室の不完全な場所を表示できる利点もあるからです。