次のステージへ:次世代技術

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次のステージへ:次世代技術

電子計測とネットワーク暗号化によって新しい量子テクノロジーアプリケーションを実現する方法

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Updated on 3月 14, 2024 🛈
Originally published on 8月 23, 2022

量子テクノロジーには、公共セクターおよび民間セクターにおいて数十億ドルの投資が行われています。量子テクノロジーのマイルストーンは、メディアによって次々と報道されています。センサーテクノロジー、コンピューティング、通信の分野においては、量子テクノロジーの応用が現実味を帯びてきています。ローデ・シュワルツの高精度な電子計測(T&M)ソリューションを使用して、科学機関や産業技術機関、および公共機関では、個々の量子システムに対して特定のテストを実行することができます。さらに、ローデ・シュワルツの暗号化技術により、安全な量子ベースの暗号通信を関連するアプリケーションに展開できるようになります。

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量子テクノ量子コンピューティング、量子センサーテクノロジー、量子通信 – これら3つのテクノロジーにはすべて破壊的な可能性があります。ロジーによるイノベーションの可能性は、金額だけを見ても明らかです。大手ベンチャーキャピタルファンドによるグローバルな取り組みだけでなく、数十億ドルもの公的リソースが、国家および多国間の研究資金としてつぎ込まれています。

例えば、ドイツ連邦教育研究省は、26億ユーロの量子テクノロジーファンドを設立しました。EU Quantum Flagshipイニシアチブは10億ユーロ以上の予算を計上し、米国では国家量子イニシアチブ法が成立し、20億米ドルもの予算が計上されました。

量子効果は、私たちの日常生活の一部になりました。例えば、最新のスマートフォンでは、フラッシュメモリチップに集積されているトランジスタの数は実に数千億に達しています。その機能は電流と電圧の制御であり、それは半導体の量子力学特性に基づいています。第1世代は、自然な量子効果を利用しています。それとは対照的に、量子テクノロジーの第2世代は個別の量子状態の作成と制御に基づいています。

量子テクノロジー2.0:期待できること

個別化医療

個別化医療:誰一人同じ人はいないため、病気も人によって異なります。例えば、がん細胞は人によって異なり、一般に時間とともに変化します。こうした違いと変化は分析によってすでに十分に文書化されており、膨大なデータが蓄積されています。ビッグデータはいわゆるバズワードですが、このデータを迅速かつ効率的に評価して個別化された治療を開発することは、従来のコンピューターでは不可能です。

サプライチェーンの高度化

サプライチェーンの高度化:物流網は地球の隅々にまで広がり、今や自宅で使うタブレットや会社のパーティーのプレゼントなども、ワンクリックで手に入るようになりました。しかしその舞台裏には、メーカー、サービスプロバイダー、サプライヤー、業者、運送会社、宅配サービスなどで構成された複雑な物流網が存在します。コンテナ港(港湾施設)でわずかな未処理(バックログ)が発生したり、購入品目の価格変更が発生した場合、できればリアルタイムで代替品を見つけなければなりません。しかしこの作業の複雑さは従来のコンピューターが処理できる範囲を超えています。

セキュリティー通信における量子物理学

セキュリティー通信における量子物理学:プライベートなものか仕事上のものか、あるいは休日のビーチでのスナップ写真にしろ新製品の開発提案であれ、データとデータ伝送は保護しなければなりません。今日の企業は絶えずサイバー攻撃の脅威にさらされており、その結果は企業のビジネスに最大級のリスクをもたらします。量子コンピューティングの発展によって、従来の暗号化テクノロジーの限界が見え始めています。量子通信のイノベーションは、不正アクセスを確実に検知でき、将来の鍵となります。つまり、機密データに対応した真の高セキュリティーチャネルを構築できます。

並外れた速度を実現する量子コンピューティング

私たちの世界はバイナリーコードで制御されています。従来のコンピューターが処理するデータは、1/0、真/偽、オン/オフの連続です。これは単純なテキスト処理からメタバースの仮想現実まで、すべてに該当します。しかし、私たちの生きる世界はますます複雑化しています。処理しなければならないデータの量も急増しています。1年で生成されるデジタルデータの量は、2012年から2020年の間に10倍に増加し、2025年には2020年の3倍になると予想されています。予測されるデータ量は180ゼタバイト、わかりやすく言えば180兆ギガバイトを上回ります。

こうした理由から、従来のコンピューターは、時間と複雑さという2つの越えられない障壁に直面しています。データ量が増えると、それに比例して処理時間が増えます。わずか2つの状態しか持たないバイナリーコードでは、問題が複雑になるほど、解決策を効率的に計算できる確率が低くなります。量子コンピューターには、現代物理学から得られた知見により、これらの両障壁を克服できる可能性があります。

Some like it cold

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「低温」技術の追求

Walther Meißner Institute for Low Temperature Research(WMI:ヴァルター・マイスナー研究所)は、バイエルン学士院の研究機関です。低温物理学と超低温物理学の分野で基礎研究と応用研究を行っています。量子コンピューティングは当然のことながら重点分野であり、研究者は自らのシステムを制御するために、ローデ・シュワルツおよびその子会社であるZurich Instrumentsの電子計測ソリューションを使用しています。

二者択一ではなく「状態の共存」

従来のビットと同様、量子力学のメモリ単位を形成するのは量子ビットです。量子ビットは0と1だけでなく、「0でも1でもある状態」、つまり「重ね合わせ」も想定できます。この同時性は、基礎技術におけるパラダイムシフトと言えます。その結果、従来のシーケンシャルな計算法を同時に実行できるため、量子コンピューターでは時間を大幅に節約できます。

新しい量子力学のアプローチが特に適しているのは、新しい複雑な問題の処理に対してです。とはいえ、これは二者択一、つまり従来の処理能力を選ぶか、量子コンピューティングを選ぶかの問題ではありません。重要なのは、作業内容に応じて既存のシステムと量子システムを統合することです。

研究目的を一目見れば、応用研究チームにどれだけの作業が存在するかがわかります。例えば、タンパク質折り畳みは極めて重要な問題であるため、重点分野です。解決策を見つければ、主要なアミノ酸配列に基づいてタンパク質の3次元構造を予測できます。有効な個別化医療をすぐに開発できる可能性があるため、この研究には大きな希望が託されています。

物理学対論理学

量子の世界では、1つの粒子は同時に2か所に存在しえます。測定などによって粒子の場所を絞り込むことができるのは、粒子が認識されたときだけです。つまり、認識されるまで、粒子には明確な場所が存在しません。この独自の特性のため、粒子は極めて不安定でもあります。個別の物理量子ビットを使用すると誤りが発生しやすいため、代わりに複数の量子ビットを論理量子ビットにグループ化します。ただし、ここで課題になるのは、タンパク質折り畳みといった実際の問題を解決するために、100万もの論理量子ビットを持つ量子システムが必要ということです。1論理量子ビットは最大100の物理量子ビットを持つことができますが、現時点での最大の処理能力は、わずか127物理量子ビットです。

Sadik Hafizovic
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私たちの使命は、量子コンピューターの構築をサポートすることです。

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Zurich Instruments(ローデ・シュワルツ・カンパニー)、CEO兼共同創業者、Dr. Sadik Hafizovic

Zurich Instrumentsは、ローデ・シュワルツ・ファミリーの最も若いメンバーです。特に、量子コンピューティング向けの電子計測器市場は、両社にとって大きな可能性を秘めています。量子コンピューターの運用と保守にはさまざまな電子計測ソリューションが必要です。量子状態を効率的に作成、記録するには、RF信号を極めて高い精度で生成、測定する必要があるためです。量子コンピューターの制御システムは、Zurich Instrumentsのポートフォリオの一つです。

"研究施設や業界パートナーは、量子コンピューターの完全運用を目指して、当社の測定システムと制御システムに信頼を寄せ頼りにしています。それ故、私たちはイノベーションの推進者であると言えます。量子コンピューティングの研究者たちは、独自で測定器を開発するために、無駄に時間を費やす必要はありません。"
Zurich Instruments(ローデ・シュワルツ・カンパニー)、CEO兼共同創業者、Sadik Hafizovic

セキュリティー性能の極めて高い量子通信

量子コンピューターは、処理効率の限界を押し上げる可能性を秘めています。しかし同時に、セキュリティー通信をはじめとする課題をもたらします。パンドラの箱は、1990年代初頭に開き始めました。高性能の量子コンピューターを使用して、従来の暗号化アルゴリズムを破りかねない最初のアルゴリズムが登場したのです。

それ以来、代わりとなる暗号化方式が重要になりました。基本的に2つの方式があります。まず、ポスト量子暗号化方式です。従来の暗号化方式を完全に含んでいますが、量子コンピューターからの攻撃を無傷で回避できることが主な違いです。この方式のアルゴリズムは、量子コンピューターと従来のコンピューターのどちらかを使用した効果的な攻撃が現時点で認識されていないという理論仮定に基づいています。

もう1つは、量子鍵配送(QKD)に関連する方式です。ドイツ連邦情報セキュリティー庁(BSI)とアメリカ国立標準技術研究所(NIST)は、この分野でのイノベーションを牽引する2大組織です。世界のデジタル化が進む中で、特に民間企業と行政機関は、信頼できるITセキュリティーソリューションに依存しています。高度な情報社会で、セキュリティー通信ネットワークは不可欠なインフラになりました。

これらの革新的ソリューションは、暗号学の焦点を変えつつあります。比較的新しいポスト量子方式だけでなく、従来の方式も、特定のタスクは十分な効率で計算できないという数学的仮定に基づいています。これとは対照的に、量子鍵配送方式は物理的原理に基づいています。

目的は対称鍵をセキュアに配送することです。そのためには、数百万の光子(光の粒子)を光ファイバーケーブルなどの光リンクで送信します。各光子の量子状態はランダムです。光子の読み取りやコピーを行おうとすると、この状態が変化します。この状態変化は確実に検知できます。QKDプロトコルは、光子を外から監視しようとすると送信が中断され、すべての中断が検知されるように設計されているためです。

最初のQKDデバイスは、主に物理学のワーキンググループによって開発され、数年間、商用化が進められてきました。ローデ・シュワルツ・サイバーセキュリティーは、セキュアなデバイス/システムの構築と実装の経験を豊富に有し、セキュリティーソリューションに関する高度な専門知識を数多くの研究プロジェクトに提供しています。

コラボレーションによるイノベーション

テクノロジーを実際に開発する以外に、お客様と連携したり、研究グループや業界団体に参加したりすることも重要です。そのため、ローデ・シュワルツは、多くの新しいネットワークに開設直後から参加してきました。そのいくつかを紹介します。

Munich Quantum Valley

ミュンヘン量子バレー(MQV:Munich Quantum Valley)は、バイエルン州で量子科学と量子テクノロジーを推進するイニシアチブであり、ドイツ連邦教育研究省から資金提供を受けています。最大100量子ビットのデモンストレーターの構築を目指しています。Zurich Instrumentsは、3次元集積化量子ビットのための新しい高忠実度読み取りスキーマと、量子プロセッサの校正ルーチンの自動化を担当しています。パートナーには、Walter Meißner Institute、ミュンヘン工科大学、Fraunhofer EMFT、Infineon、Kiutra、Parity Quantum Computing Deutschland、IQM Deutschlandが含まれます。

https://www.munich-quantum-valley.de/

QSolid

このプロジェクトは、性能、サイズ、精度、アプリケーション範囲の異なる複数世代のプロセッサを使用して、超伝導量子コンピューターのデモンストレーターを構築することを目指しています。Zurich Instrumentsは、量子コンピューターの制御システムを量子スタックに統合し、広帯域通信に合わせてデータ送信プロトコルを最適化する作業に取り組んできました。当プロジェクトに深く関与している業界パートナーには、Parity Quantum Computing Deutschland、HQS Quantum Simulations、Rosenberger Hochfrequenztechnik、IQM Deutschland、Supracon、Racyics、AdMOS、LPKF Laser & Electronics、Partec、Atotech、Atos Information Technologyが含まれます。

https://www.q-solid.de/

OpenSuperQ

このプロジェクトは、欧州連合最大で最も画期的な研究活動の一つ、Quantum Flagshipの一部です。最大100量子ビットの量子データ処理システムの設計、構築、運用を目指しています。システムを中央に配置し、外部ユーザーがいつでも使用できるようにする予定です。Zurich Instrumentsは、室温管理用電子機器全般と、多量子ビットシステムの測定および制御ソフトウェアを担当しています。ドイツのJülich Research Center、スイスのチューリッヒ工科大学、スウェーデンのチャルマース工科大学が主なパートナーです。

https://opensuperq.eu/

長期的セキュリティーのためのBotan暗号ライブラリ

ローデ・シュワルツ・サイバーセキュリティーは、パートナーであるFraunhofer Institute for Applied and Integrated Security(AISEC)、ベルリン工科大学、Nexenioとともに、量子コンピューターからの攻撃に抵抗できる暗号化アルゴリズムのライブラリをアップグレードしています。

https://botan.randombit.net/

OpenQKD

欧州連合は、加盟13か国の約40のプロジェクトパートナーで構成されたQKD専門のコンソーシアムを設立しました。量子鍵配送の実用化に向け、テストおよび通信ネットワークのインフラを構築することが目的です。今後のフォローアッププロジェクトで、European infrastructure for quantum communications(EuroQCI)の開発が予定されています。

https://openqkd.eu/

DemoQuanDT

ドイツ連邦教育研究省のこのプロジェクトは、通信インフラにおけるセキュアなQKDネットワーク管理システムの研究、開発、デモを目的としています。プロジェクトの過程で、ベルリン、ボン両市を量子通信のテストルートでリンクし、デモを行う予定です。ドイツで最長の量子ネットワークを確立することをビジョンに掲げています。

https://www.forschung-it-sicherheit-kommunikationssysteme.de/projekte/demoquandt

Quarate

Quarateは、ドイツ連邦教育研究省が出資したプロジェクトです。量子マイクロ波と高度な相関手法を使用してデータ収集を強化し、従来のレーダーテクノロジーの限界を押し上げることが目標です。プロジェクトパートナーには、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、ミュンヘン工科大学(TUM)、Walther Meißner Institute(WMI)などがあります。

https://www.quantentechnologien.de/forschung/foerderung/anwendungsbezogene-forschung-in-der-quantensensorik-metrologie-sowie-bildgebung/quarate.html

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