高速インタフェースでの差動測定の最適化

高速シリアルインタフェースは、差動信号でデータを送信する場合が多いです。信号のプロービングにはトレース差動プローブが使用されます。トレース差動プローブには、とりわけ高帯域幅モデルにおいて、差動入力の他に追加のグランド接続が搭載されている場合があります。R&S®RT‑ZMxx モジュール式マルチモード・プローブは、グランド接続を使用して高速差動インタフェースの測定を改善できます。

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課題

課題となるのは、差動伝送を用いるPCIe、USB 3.1、10ギガビットイーサネットなどの高速インタフェースを測定することです。差動信号レーンでは、1つの信号線をグランド接続(シングルエンド伝送)する代わりに、互いを基準とする正および負のラインが使用されます。測定される差動信号は負の入力と正の入力の差です。高インピーダンス入力のため、プローブのダイナミックレンジ内にある限り、差動プローブは任意の2つの電位間の信号を測定できます。差動プローブは、2つの信号レベルの電圧の差を測定し、増幅します。

電子計測ソリューション

高速インタフェースを正確に解析するには、差動プローブを注意深く選択することが重要です。図1に、正(VP)および負(VN)の入力電圧でUSB3.1 Gen1信号を測定する差動プローブの測定セットアップを簡略化して示します。この例では、主電源に接続されていないノートパソコンにUSBドライブを接続しています。差動電圧(VDM= VP– VN)およびコモンモード電圧(CM= ½ (VP+ VN))が示されています。

プローブにはグランド接続もあります。この接続には通常は未知の寄生インダクタンスLparasiticがあり、グランドの質および特性(例:グランドまでの距離)によって決まります。グランド・インダクタンスが高いと、コモンモード除去性能の周波数依存性のため、測定される高速信号の質が低下します。プローブのコモンモード除去比(CMRR)を改善するためにグランド接続が必要です。

アプリケーション

差動測定におけるグランド接続の影響は図1のセットアップに基づいて解析できます。

  • USBドライブはノートパソコンに接続されています。
  • 送信した信号はR&S®RTO2064に接続されたR&S®RT-ZM60 モジュール式プローブによって検出されます。

1つ目のセットアップでは、チップモジュール内のグランド接続が使用されます。2つ目のセットアップでは、この追加のグランド接続の効果を比較して示すために、グランド接続は使用されません。

最初に両方のセットアップ(グランド接続の有無が異なる)のコモンモードを測定し、その後で差動電圧を測定します。R&S®RT-ZM モジュール式プローブは、プローブの接続またははんだ付けをやり直さなくても差動モード(DM)測定とコモンモード(CM)測定を切り替えることができるので、この測定に最適です。

図2に、CM電圧測定の結果を示します。青い波形はグランド接続がある測定(セットアップ1)を表します。黄色い波形はグランド接続のない測定(セットアップ2)を表します。右側の測定結果ボックス「Meas Results」にはCM電圧のピークツーピーク(PTP)電圧および実効値(RMS)電圧が表示され、両方の測定のCM電圧を比較することができます。

CM電圧の測定結果の比較
測定タイプ グランド接続あり グランド接続なし
ピークツーピーク(平均) 95 mV 123 mV 1.29
実効値(平均) 9 mV 12.3 mV 1.37

グランド接続がある場合のCM電圧のPTPおよびRMSの測定結果(PTP = 95 mV、RMS = 9 mV)は、グランド接続がない場合の測定結果(PTP = 123 mV、RMS =12.3 mV)よりはるかに低くなっています。このことは、正確なCM測定にはグランド接続が必要であることを示します。

図3の紫の波形は、プローブがグランド接続されていない場合の予測できない未知の影響の例です。これはノートパソコンが電源装置を通して主電源に接続されている場合のグランド接続のない測定(図2の黄色い波形)を表します。紫の波形は、電源装置のスイッチング周波数(約55 kHz)も測定され、測定結果に影響することを示しています。CMのピークツーピーク測定値は3倍の298 mVになります(「Meas Results」ボックスのPTPの値)。

プローブがグランド接続されている場合、ノートパソコンを主電源に接続しても測定結果に影響しません。この結果は、プローブのグランド接続も差動電圧の測定に影響することを示します。両方の測定を同じデータパターンで比較するには、シリアルバスのプロトコルトリガを使用します。

図4の青い波形は、プローブをグランド接続した場合の測定結果を表します。黄色い波形はグランド接続がない場合の測定値を表します。青い波形のTIEジッタは下部の緑色のヒストグラムに表示されます。

グランド接続があるセットアップのRMSジッタは、ヒストグラムの標準偏差σ = 10.8 ps(赤い矢印)に対応します。黄色い波形で同じ測定を実行した結果はσ = 14.5 psのRMSジッタとなり、34 %高くなっています。これは、ズームウィンドウで見られる黄色い波形のオーバーシュートと相関関係にあります。これらの結果は、グランド接続があるプローブを使用した場合の方が測定の信号忠実度が優れていることを示します。

図1:USB 3.1 Gen 1送信信号を測定する差動プローブの例。

図2:両方のテストセットアップのCM測定およびピークツーピーク電圧/RMS電圧測定の比較。

図3:ノートパソコンが主電源に接続されている場合のグランド接続のないCM電圧測定。

図4:DM測定の比較。

まとめ

R&S®RT-ZM モジュール式プローブには、DM測定、CM測定、およびシングルエンド測定を実施するための特別な機能があります。DM測定では、グランド接続を使用することで回路の浮動を防止し、とりわけ周波数が高い場合に差動プローブの測定範囲内で安定した再現性のある信号を保証できるため、グランド接続が必須です。

グランド接続を使用することで寄生インダクタンスを減らすこともできます。寄生インダクタンスは、高いシグナルインテグリティーを維持するためにできるだけ小さくする必要があります。グランド接続した差動プローブは干渉に対する高い耐性を保証できます。

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