Application Notes

費用のかかるフィールドテストを実行せずに移動エミッターをラボ内で作成

R&S®Pulse Sequencer ソフトウェアを使用すれば、EWレシーバーテスト用の移動レーダーエミッターと移動レシーバーを容易にシミュレートできます。このソフトウェアとR&S®SMW200A ベクトル信号発生器の組み合わせは、強力なレーダーシミュレータになります。高度に動的な3Dシナリオをラボ内で作成できます。

課題

低速で移動する船舶から高速で移動する航空機まで、移動するレーダーエミッターのシミュレーションはさまざまなテストケースで必要になります。エミッターが近づくか遠ざかることによるEWレシーバーのアンテナ入力でのRFレベル変動は、1/R2の法則に従います。設置されているアンテナのメインローブの照準方向は、エミッターまたはレシーバープラットフォームの姿勢の動的変化によって変化します。これにより、さらにレベル変動が引き起こされます。このために、EWレシーバーのフィールドでの信頼性を確保するには、現実的なシナリオでのテストが不可欠です。ただし、実際の動作環境でレシーバーをテストするには、費用と時間がかかります。さらに、期待どおりの性能が得られなかった場合、システムに大きな変更を加えるには遅すぎる可能性もあります。このため、レシーバーの性能を評価するためのもっと簡単で高速な方法が必要とされます。

電子計測ソリューション

R&S®SMW200A ベクトル信号発生器にR&S®SMW-K304 移動エミッターオプションとR&S®Pulse Sequencer ソフトウェアを組み合わせることで、強力なレーダー・シナリオ・シミュレータを実現できます。これにより、再生時間がきわめて長い複雑な移動エミッターシナリオを簡単にモデル化できます。さらに、以下のことも可能です。

  • 直線や円弧などのエミッター軌道を3自由度で容易に定義
  • 車両記述ファイルを使用して、X、Y、Z座標だけを含み、タイムスタンプを持たない軌道をスムージング
  • 6自由度(6-DOF)とタイムタグを持つ複雑な軌道を記述するユーザー作成のウェイポイントファイルをインポートすることで、シナリオを個別化
  • 加速度およびドップラーオフセットのシミュレーション
  • 動的3Dシナリオのプレビューと可視化

地図上でのシナリオ定義

以下に示すサンプルシナリオでは、レーダーを放射している哨戒機(青)が直線軌道で東に向かっています。地図の原点では、低速で移動中の大きい航空機(レーダーレシーバーを搭載)が左に向きを変えつつあり、最終的には北東に向かいます。

地図上の動的シナリオ
地図上の動的シナリオ

現実的な戦闘シナリオのシミュレーション

レシーバーの飛行経路(低速で移動中の赤の航空機)は、軌道シミュレータからインポートされました。飛行経路はウェイポイントファイル(ファイル名*.xtdの独自フォーマット)で定義され、位置と姿勢の情報がタイムスタンプ付きで記録されています。エミッター(青の航空機)の飛行経路には、R&S®Pulse Sequencer ソフトウェアで提供されている定義済みの軌道が用いられています。このシナリオでは、青のエミッター航空機のレーダーはXバンドで動作し、ペンシルビームとラスタースキャンが用いられていると仮定されます。明るい青の陰影部分は、ラスタースキャンの対象となる領域を示します。スキャン速度は30 °/s(ラスター幅90 °)です。赤の航空機は、電子支援対策(ESM)システムの一部として、方位角カバレッジが360 °のレーダー警戒機器を搭載しています。これは、カージオイド・アンテナ・パターンを持つ4つのセクターアンテナを使用しています。

レシーバー・パワー・レベルのシミュレーション

この図は、上記の戦闘シナリオによるレベル変動を示します。レシーバーの4つのセクターアンテナの1つのRFパワー・レベル・トレースだけが示されています。このシナリオには、3つのタイムインターバル(赤、緑、青のバー)が含まれています。シナリオの開始時(赤のインターバル)には、レシーバーはエミッター(青の航空機)の機首方位を基準として1時の位置にあります。その後、緑のインターバルでは、2つのグループがあり、それぞれに2つずつのピークが発生しています。これらのピークは、エミッターのペンシルビームによるラスタースキャンから生じています(1)。スキャン2の間は、2つのピークの間隔は約4.7 sです。すなわち、レシーバーはラスター幅の中央から外れて位置しています。レシーバー航空機が方向を変えるために左にロールすると、緑のインターバルの2番目のグループのピークは低くなります(ΔP1)。この飛行経路により、カージオイド・アンテナ・パターンは下方向に傾きます。この傾きのために、近づいてくるエミッターに対するアンテナ利得が減少し、受信パワーレベルが低下します。青のインターバルのシミュレーション時刻17秒付近では、赤の航空機が元の姿勢に戻って北東を向き、受信パワーが大幅に増加して約ΔP2=14 dBとなります(2)。青のインターバルの間は、エミッターは着実にレシーバーに近づきます。受信パワーはさらに増加し、シナリオの開始時の初期値に比べてΔP3=12 dBとなります(4)。赤の航空機は、青の航空機の飛行経路を基準としてほぼ12時の位置にあります。このため、スキャン5の間に受信されたエミッターの送信信号のピークの間隔は3.2 sとなります(3)。赤の航空機は、ラスタースキャンのほぼ中央に位置しています。

主な利点

  • 移動エミッターと移動レシーバーによる現実的な飛行のシミュレーション
  • 強力なシナリオプレビューによるレベル変動の解析
  • R&S®SMW200AにR&S®SMW-K304 オプションとR&S®Pulse Sequencer ソフトウェアを組み合わせて強力なレーダーシミュレータを実現
赤色の航空機のレシーバーの選択したアンテナ出力のRFパワーレベルのプレビュー
赤色の航空機のレシーバーの選択したアンテナ出力のRFパワーレベルのプレビュー