Delta‑L 4.0によるPCB信号伝送路の挿入損失テスト

データレートが絶えず上昇するため、高速デジタルデザインのシグナルインテグリティーがますます厳格になっています

例えば、PCIe 5.0は、最大32 GT/sのデータレートを実現し、ルートコンプレックス(RC)とエンドポイント(EP)の間で許容できる最大挿入損失を定義しています。これは、RCパッケージ、EPパッケージ、コネクタ、およびビアに加えて、対応するPCBレイヤー上の信号トレースによって決まります。そのため、インチ当たりの挿入損失が主な指標になり、これを、PCBプローブやビアを含むあらゆるリードインおよびリードアウトの影響なしで測定する必要があります。Delta Lは、そのような影響を除去して、長さの異なるテストクーポンの測定値からPCBトレースのインチ当たりの挿入損失を計算する簡単な手法を提供するアルゴリズムです。

図1:Delta‑L 4.0プローブを用いたR&S®ZNB40セットアップ
図1:Delta‑L 4.0プローブを用いたR&S®ZNB40セットアップ
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課題

特定のPCBレイヤーで信号トレースの挿入損失を測定するときには、PCBプローブやビアを含むリードインおよびリードアウトが結果に対して不要な影響を及ぼします。そのため、測定値からこれらを除去して必要な領域のみ残す必要があります。Delta Lは、長さの異なる信号伝送路を使用して、このような影響を数学的に除去し、特定のPCBレイヤーにおける信号トレースのインチ当たりの挿入損失を算出するために開発されたアルゴリズムです。Delta Lの測定ワークフローは、R&S®ZNA、R&S®ZNB、R&S®ZNBT、およびR&S®ZND ベクトル・ネットワーク・アナライザにR&S®ZNx-K231オプションとして完全に統合されます。

この手法は、テストフィクスチャの完全な特性評価と、対応するテストフィクスチャのディエンベディングを行って、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)の基準面を被試験デバイス(DUT)に隣接する新しい位置に移動させます。この手法は、あらゆるDUTの測定に使用することができます。Delta Lは、特定のPCBレイヤーのDUTを理想に近い伝送ラインと仮定して、それを長さと損失によってのみ特性評価する他のアルゴリズムとは異なります。R&S®ZNA、R&S®ZNB、R&S®ZNBT、およびR&S®ZNDベクトル・ネットワーク・アナライザでは、テストフィクスチャを完全に特性評価するワークフローだけでなくディエンベディングも使用可能です。対応するオプションは、R&S®ZNx-K210(EZD)、R&S®ZNx-K220(ISD)、およびR&S®ZNx-K230(SFD)です。

特定のPCBレイヤーでインチ当たりの挿入損失のみが必要な場合、Delta Lは、3種類の手法(1L、2L、または3L)によりPCB伝送路を測定することでそれらの結果を取得できる、簡単な専用の手法を提供します。これらの手法では、トレース長の異なる、使用されるテストクーポンの数が定義されます。図2に、5インチおよび2インチのテストクーポンを使用している2Lのサンプルを示します。

Delta L 3.0は、インチ当たりの挿入損失を計算するために、プローブ、プローブのランチおよびピッチ(1.0 mm)とアルゴリズムを定義します。PCIe 4.0まで、最大20 GHzの周波数まで対応可能です。Delta L 4.0は、最近の拡張によりPCIe 5.0およびPCIe 6.0にも対応しています。プローブのランチおよびピッチ(0.5 mm)を再定義して、アルゴリズムは最大40 GHzまで拡張されています。R&S®ZNx-K231オプションには新しいDelta L 4.0アルゴリズムが含まれていて、Delta L 4.0とDelta L 3.0の両方の測定に使用することができます。

図2:2種類の長さのテストクーポンを使用しているDelta‑L手法
図2:2種類の長さのテストクーポンを使用しているDelta‑L手法
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図3:PacketMicro社のDelta‑L 4.0プローブ
図3:PacketMicro社のDelta‑L 4.0プローブ
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ローデ・シュワルツのソリューション

全体のセットアップを図1に、Delta L 4.0プローブとテストボードを使用したセットアップの拡大写真を図3に、さらに拡大した写真を図4に掲載します。VNAは、同軸ケーブルの端まで校正されます。校正には、R&S®ZN-Z54 自動校正ユニットなどを使用します。

図4:PacketMicro社のDelta‑L 4.0プローブとテストボード
図4:PacketMicro社のDelta‑L 4.0プローブとテストボード
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R&S®ZNx-K231オプションを搭載すると、Delta LワークフローがR&S®ZNA、R&S®ZNB、R&S®ZNBT、およびR&S®ZND ベクトル・ネットワーク・アナライザに完全に統合されます。その実装は、1L法、2L法、および3L法をサポートし、1つ、2つ、または3つの異なる長さのテストクーポンが使用されます。手法は測定器に統合されるため、外部PCによる後処理はまったく必要ありません。

図5:R&S®ZNx-K231でのDelta‑Lの実装
図5:R&S®ZNx-K231でのDelta‑Lの実装
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図5および図6に示されているダイアログを用いて、Delta Lの測定設定にアクセスします。これにより、測定器のポート設定、Delta L手法の選択、掃引の定義などが可能です。Sパラメータだけでなく、TDRインピーダンスも表示可能です。これにより、Delta Lプローブの適切な接続を検証して、必要に応じてプローブを再調整することができます。

図6:R&S®ZNx-K231のDelta‑L設定の構成
図6:R&S®ZNx-K231のDelta‑L設定の構成
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プロセスの自動化

ユーザーが設定を定義すると、Delta Lワークフローのさまざまなステップを通じてガイドが表示され、これに従って、Delta L測定を開始することができます。各クーポン長ごとに、ユーザーは、ライブ測定を選択するか、またはTouchstoneフォーマットに保存されている既存の測定結果をロードすることができます。

図7:Delta‑Lワークフロー 3Lテストのサンプル
図7:Delta‑Lワークフロー 3Lテストのサンプル
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図7に示されているサンプルは3L法です。10インチ、5インチ、および2インチのテストクーポンが使用されています。このケースでは、Delta Lは、10インチと5インチ(目的の領域=5インチ)、10インチと2インチ(目的の領域=8インチ)、5インチと2インチ(目的の領域=3インチ)を結合して、対応するリードインおよびリードアウトを除去することで、インチ当たりの挿入損失を提供します。図2の説明を参照してください。3L法は多くの情報を提供するので、一般的に、材料選択などの早期の段階で使用されます。

図8:Delta‑Lワークフロー 2Lテストのサンプル
図8:Delta‑Lワークフロー 2Lテストのサンプル
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図8に示されているサンプルは2L測定で、10インチおよび5インチのテストクーポンが使用されています。こちらの場合、Delta Lアルゴリズムは、使用できる10インチと5インチ(目的の領域=5インチ)の長さのみを結合して、対応するリードインおよびリードアウトを除去し、インチ当たりの挿入損失として1つの結果を提供します。2L法は、目的の領域において正確なインチ当たりの挿入損失を求められるので、ボードサンプリングに推奨されます。1L法は1つのクーポン長しか使用せず、リードインとリードアウトは測定から除去されません。これは量産用に設計されていて、複数ボードのテストクーポンを元に製造プロセスの傾向と統計情報を提供します。

図9:スムージングあり/なしのインチ当たりの挿入損失
図9:スムージングあり/なしのインチ当たりの挿入損失
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必要なすべてのテストクーポンの測定結果が取得されれば、すぐにDelta Lワークフローの"Run"ボタンを使用して、対応するDelta Lの計算を開始することができます。結果は、追加された新しいダイアグラムに表示されます。Delta Lの測定設定で選択されたすべての周波数に対してマーカーを使用でき、インチ当たりの挿入損失と対応する不確かさの数値を表示できます。図9に、2L法で10インチと5インチのテストクーポンを使用しているDelta Lの結果を示します。オレンジのトレースは、スムージング済みの曲線で、選択された周波数にマーカー値が表示されています。青のトレースは、スムージングなしの曲線で、基準/比較のために表示しています。

まとめ

R&S®ZNA、R&S®ZNB、R&S®ZNBT、およびR&S®ZND ベクトル・ネットワーク・アナライザは、デジタル高速信号伝送路のシグナルインテグリティーテストを実行するために必要なすべての機能をワンボックスに備えています。R&S®ZNx-K231オプションには、Delta L測定フローが含まれており、PCIe 5.0およびPCIe 6.0で要求されるDelta L 4.0まで対応しています。Delta L 4.0は最大40 GHzまで使用できるように開発されていて、シンプルな専用の手法を用いて、特定のPCBレイヤーのトレースセクションでインチ当たりの挿入損失を取得することができます。

Delta‑Lソフトウェアオプションのオーダー情報

概要 タイプ オーダー番号
Delta L 4.0 PCB特性評価、Intel Delta L 4.0手法に基づく完全な1L、2L、および3L解析
R&S®ZNA用 R&S®ZNA-K231 1339.3922.02
R&S®ZNB用 R&S®ZNB-K231 1328.8628.02
R&S®ZNBT用 R&S®ZNBT-K231 1328.8663.02
R&S®ZND用 R&S®ZND-K231 1328.8705.02