R&S®SMW200Aによるパルス記述子ワードのストリーミング

R&S®SMW200A ベクトル信号発生器は、高度に統合されたレーダーシナリオ・シミュレータにおける非常に現実的なアジャイル・レーダーシナリオで、高性能で柔軟性の高い信号発生源の役割を担うことができます。R&S®SMW200AにR&S®SMW-K503/-K504オプションを搭載することで、ストリーミングされたパルス記述子ワード(PDW)から、最先端のI/Q変調レーダー信号を、今後の変化に対応しながら生成することが可能です。最大12 MPDW/s(メガパルス記述子ワード/秒)のPDW実行速度をサポートしています。

課題

多くの場合、レーダーエンジニアは、R&S®パルスシーケンサなどのソフトウェアツールを使用してレーダーシナリオを計算します。これは、レーダー装置の研究開発や検証中に便利なソリューションです。ユーザーは簡単にパラメータを変更でき、非常に柔軟にレーダーシナリオを設計できます。

動作テスト向けにレーダーエンジニアは、パルス密度の高い厳密な電子戦争(EW)環境を含む非常に長いレーダーシナリオを作成する必要があります。シナリオは以前のシミュレーションか、ライブ記録を元に作成されます。通常、それらはパルス記述子ワード(PDW)のリストとしてレコーダーに保存されます。PDWには、各パルスのレーダー信号パラメータと、パルス開始時間を定義するタイムスタンプが含まれています。

システムレベルのテストは、通常、ハードウェア・イン・ザ・ループ(HIL)環境で実行されます。被試験デバイス(DUT)の出力は、評価対象であり、入力信号に影響を与えるため、シナリオをリアルタイムで計算する必要があります。これには、DUTの出力に基づいてPDWを計算する強力なシミュレーションエンジンを必要とします。

動作テストやシステムレベルのテストの場合、レーダーエンジニアには、LANなどを介してストリーミングされたPDWを受信し、解釈し、PDWからレーダー信号を生成できるRF信号源が必要です。

ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®SMW200Aは、2 GHzのベースバンド帯域幅内に最大44 GHzのRF周波数を用いて要求の厳しいEW環境を作る、アジャイル信号源の役割を担います。また、ストリーミングPDWからI/Q変調パルス信号、高速スイッチングによるアジャイル信号、従来のパルスド信号を生成します。R&S®SMW200Aは、レーダー信号シミュレータからLAN経由でストリーミングされたPDWを受信します。高性能なベースバンドハードウェアが、PDWを解釈し、PDWで定義された時間にパルス記述に基づいてRF信号を生成します。R&S®SMW200Aにはパルスの実行と生成を、最大6つのパラレルPDWストリームから1ストリームあたり最大2 Mpulse/s(2 MPDW/s)の実行速度で行う能力があります。

DUTとの同期は、一般的な基準信号(10 MHzまたは1 GHz)と、パルスマーカー、プリマーカー、ポストマーカーなどのマーカー信号を使用して簡単に実現できます。

R&S®SMW200AによるPDWストリーミングの概念
R&S®SMW200AによるPDWストリーミングの概念

ローデ・シュワルツのPDWフォーマット

1つのパルスを表す単一のPDWは固定長で、到着時間(ToA)、周波数オフセット、振幅オフセット、パルス持続時間、変調パラメータなどの情報を含むデータが含まれています。この情報は、従来のパルス(リアルタイムデータ)またはI/Q波形セグメント(波形ID番号)の作成に使用できます。オプションでPDWフォーマットを拡張すると、エッジ形状と繰り返しパルスバーストの指定が可能になります。

従来のPDW(リアルタイムデータ)のストリーミング

従来のパルスド信号だけを含むPDWには、R&S®SMW200A 広帯域ベースバンドハードウェアのリアルタイム信号発生機能を活用できます。

非変調パルス、Barkerコードパルス、リニアFMパルス(チャープ)が周波数オフセットまたは振幅オフセットと一緒に、PDWに定義されているパラメータに基づいてリアルタイムで作成されます。パルス開始時間は、PDWに含まれるToAタイムスタンプによって定義されます。

制御PDWの効果
制御PDWの効果 - RF経路の周波数と振幅の両方の変更
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制御PDWのストリーミング

制御PDWを使用すれば、ストリームを止めずに、R&S®SMW200AのRFハードウェアを直接制御できます。制御PDWにより、測定器の絶対RF周波数の変更(例えば、さまざまなレーダーバンドをシミュレートするためのXバンドからCバンドへの変更)、またはRFレベルの変更(例えば、エミッターのさまざまな実効等方放射電力(EIRP)をシミュレートするための0 dBmから–20 dBmへの変更)が、追加のリモートコマンドの必要なしに行えます。

RFハードウェアのRF周波数レンジとダイナミックレンジをフルに活用し、RF周波数を切り替えてさまざまなレーダーバンドをカバーすることができます。これらの制御コマンドをストリームに埋め込むことにより、変更の開始をToAタイムスタンプによって正確に決定することができます。信号は予測可能な安定した方法で変更できます。コマンドが非常に短いミューティング期間の後に実行され、PDWの処理が再度可能になります。

リアルタイム信号の主要な性能パラメータ
1ストリームあたりのリアルタイム信号の最小PRI 0.5 µs
1ストリームあたりのI/Q波形セグメント
の最小PRI
1 µs
1測定器あたりの最大PDW実行速度
6ストリームの場合
12 MPDW/s
Barkerコード13の変調パルスをリアルタイムで作成できます
Barkerコード13の変調パルスをリアルタイムで作成できます
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リニア周波数変調の変調パルスをリアルタイムで作成できます
リニア周波数変調の変調パルスをリアルタイムで作成できます
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I/Q変調信号の発生

R&S®SMW200A ベクトル信号発生器は、ストリーミングPDWからI/Q変調信号を生成することもできます。PDWには、デジタルベースバンドのメモリに事前に保存されている定義済み波形セグメントへの参照を含めることができます。このソリューションにより、従来のパルスド信号を定義するPDWと、IとQで記述される最先端のレーダー信号を混在させることが可能です。ToA情報は、信号発生の開始を定義します。周波数オフセット、振幅オフセット、位相オフセットが、PDWで定義されたとおりにリアルタイムで適用されます。

方形パルスとそれに続く線形およびナイキスト・フィルター・エッジのパルス
方形パルスとそれに続く線形およびナイキスト・フィルター・エッジのパルス
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1つのPDWを使って生成された10個の方形パルス
1つのPDWを使って生成された10個の方形パルス
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成形されたパルスのエッジとバースト

独自の特長として、I/Qセグメントを利用せずにPDW内でパルスエッジ形状を指定できます。方形、線形、またはナイキストフィルター形状が使用可能です。これらの形状を用いると、レシーバーの現実的な帯域幅制限テストが外部フィルターなしで行えます。1つのPDWで同一パルスを複数作成するには、パルスバースト用のPDWフォーマット拡張を使用して、1つのPRIと多数の繰り返しを指定できます。

複数の同時送信エミッターの結果
複数の同時送信エミッターの結果
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パルスオンパルスのマルチ・エミッター・シミュレーション

要求の厳しいテスト環境を作成する場合、信号発生器には複数のエミッターを同時にシミュレートする機能が求められ、パルスオンパルスシミュレーションの実行が必要となります。

2台の広帯域ベースバンド発生器(R&S®SMW-B9)が装備されている場合、R&S®SMW200Aは、2つの独立したPDWストリームを受け入れることができます。2つまたは4つの追加の処理ボード(R&S®SMW-B15)を搭載することにより、同時ストリームの数が6に増加します。専用RF出力に割り当てられたPDWストリームは、内部的に同期をとって追加されます。すべてのPDWストリームを単一のRF出力にルーティングするか、2つのRF経路がインストールされている場合は、各RF出力に最大3つのストリームを割り当てることができます。

1つのR&S®SMW200Aで最大6つのストリームを提供することで(エミッターなど)、マルチチャネルセットアップはよりシンプルでコンパクトになり、専有面積も小さくなっています。

ハードウェア・イン・ザ・ループ(HIL)セットアップへの統合

HILシミュレーションは、DUTの実環境をエミュレートするシミュレータシステムに、DUTを組み込むテスト方法です。レシーバーテストでは、DUTは通常、シミュレータによって制御された信号発生器に接続されます。シミュレータは、信号発生器からの入力信号に基づいてDUTの出力データを評価し、テストパラメータに従って発生器を調整します。

HILセットアップでは、信号発生器に対してリアルタイム機能、高い更新レート、低遅延が求められます。R&S®SMW200Aは、リアルタイムのPDWストリームを受け入れ可能で、イーサネットポートからRF出力ポートまでの遅延が少ないため、このようなセットアップへの統合に最適です。HILシミュレーションでは、すべてのデバイス間の正確な同期が不可欠です。R&S®SMW200Aは、外部基準クロック入力、トリガ入力、ユーザー定義マーカー出力をサポートしているので、HILシミュレータと同期するための複数のオプションが得られます。包括的なPDWストリーム統計も利用できるので、デバッグが容易になります。

主な利点と特長

  • HILテスト用レーダー信号のリアルタイム生成
  • 1測定器あたり最大12 MPDW/sのPDW実行速度
  • 単一ボックスでパルスオンパルスを使用したマルチエミッターPDWストリーミング
  • 任意のI/Q変調波形の生成
  • 成形パルスエッジによる帯域幅制限テスト
  • 最小限のメモリ要件で、きわめて長い信号再生時間を実現
  • 単一のボックス内に2つの独立したRF経路
  • 優れた信号品質
R&S®SMW200Aを使用したハードウェア・イン・ザ・ループ・テストベンチ
R&S®SMW200Aを使用したハードウェア・イン・ザ・ループ・テストベンチ