ミックスド・シグナル・パワー・デザインのスペクトラム内の発生頻度の少ない異常の検出

パワーエレクトロニクス回路は、多くの場合、主要機能に加えて、システムデザイン要件を満たすために、サブモジュールとのインタフェースなどの他の基本的機能の提供を要求されます。このため、パワーデザインには、マイクロコントローラーとの組み合わせによるバス通信が含まれます。このためにデザインが複雑化し、伝導性エミッション測定に悪影響を与える場合があります。このような補助機能から発生するエミッションは頻度が少ない場合があり、根本原因の発見と特定が困難になります。発生頻度の少ないイベントを効率的に発見するには、超高速のFFT解析機能を備えた測定器が不可欠です。

R&S®MXO 5シリーズ オシロスコープ
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課題

ブラシ付きDCモーター用のモータードライバーなどのパワーデザインでは、アナログ回路とデジタル回路が同じプリント回路基板上に共存しています。デザイナーはこの複雑性を考慮する必要があります。特に問題になるのが、パワーライン上に存在する伝導性エミッションです。プリント回路基板のデザインが不適切な場合、マイクロコントローラーやSPIなどのバス通信用のクロックがエミッションに寄与することがあります。バス動作は継続的に起きるとは限らず、多くの場合は他の外部システムコントローラーによって引き起こされます。パワーライン上の伝導性エミッションを測定する際に、このようなバス動作によって、周波数スペクトラム内に発生頻度の少ないイベントが生じることがあります。開発プロセス中の伝導性エミッションのデバッグ用に用いられる標準的な測定器はオシロスコープです。ただし、発生頻度の少ないきわめて短時間のイベントをスペクトラム内で検出するには、標準のFFT実装を備えたオシロスコープでは限界があります。その主な原因は、FFTスペクトラムを表示するための計算プロセスに時間がかかりすぎることにあります。FFTスペクトラムの計算が行われている間に、発生頻度の少ない短時間のイベントが見逃される可能性があるのです。根本原因の発見には、超高速のFFT性能が不可欠です。

図1:伝導性エミッションのデバッグ。
図1:伝導性エミッションのデバッグ。
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ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®MXO 5シリーズ オシロスコープは、スペクトラムを測定して伝導性エミッションに関する詳細な情報を短時間で提供できるので、このような困難な作業に最適です。高速FFT機能により、最大45,000 FFT/sの速度でスペクトラムを収集できます。低雑音アナログフロントエンドとの組み合わせにより、発生頻度の少ないイベントをきわめて効率的かつ正確に検出できます。

さらに、FFTがタイムドメイン設定から独立しているという特長が、EMIデバッグにとってはきわめて便利です。標準的なFFT実装では、FFTの更新速度が分解能帯域幅によって大幅に低下します。さらに、近磁界プローブを使用することで、システム内のノイズソースを発見できます。このためにも、高速なFFTが必要です。安定した再現性のある測定には、疑似電源回路網(AMN)が必要です。

アプリケーション

ブラシ付きDCモーターが接続された完全統合型ハーフブリッジドライバーを使用して、伝導性エミッションスペクトラム内の発生頻度の少ないイベントの例を示しました。この被試験デバイス(1ページの図1を参照)は、2つのハーフブリッジを持つパワーパートを備え、SPIバスを通じて設定できます。バスにはマイクロコントローラーが接続されており、ドライバーのステータスをモニターして、モーターの速度と方向を制御する役割を果たします。システム外部のモジュールとの通信には、CANバスが用いられます。

根本原因の発見

この手順は3つのステップに分けられます。

  • ステップ1:残光モードをオンにして(発生頻度の少ない異常を見やすくするため)、CISPR25などの必要な規格に基づく伝導性エミッション測定を実行します。
  • ステップ2:さまざまなサイズの電気プローブと近磁界磁気プローブを使用して、根本原因を発見し、その位置を特定します(特定のボード機能と相関があるエミッションを見つけます)。
    注記:非周期的現象に関する情報を得るため、残光モードはまだオンにしておきます。
  • ステップ3:スペクトラムと専用機能の間の相関が見つかったら、無限残光モードをオフにし、根本原因の可能性が高い信号でトリガします(この仮定が正しいかどうかを測定によって確認し、正しくない場合はステップ2を繰り返します)。
図2:パワーライン上の伝導性エミッション測定。
図2:パワーライン上の伝導性エミッション測定。
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測定例

図2に、ブラシ付きモーターアプリケーションのパワーライン上の伝導性エミッション測定結果を示します。高速FFTと残光モードの組み合わせにより、スペクトラム全体に大きいエミッションを生じる発生頻度の少ないイベントを検出できます。このノイズエンベロープ(白い矢印で示した薄黄色の部分を参照)は、バス通信やクロックなどの広帯域のノイズソースから生じる信号の典型的な特徴を示しています。伝導性エミッション測定の後で、近磁界プローブを使用することで、プリント回路基板上のマイクロコントローラーのそばのSPIデータトラックの近くに、類似の特性を持つエミッションが見つかります。これより、高い確率でSPIの動作が根本原因だと仮定できます。

図3:SPIデータの伝送中のEMIスペクトラム。
図3:SPIデータの伝送中のEMIスペクトラム。
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最後のステップで確証が得られます(図3を参照)。この測定では、ノーマル・トリガ・モードをオンにして、SPI通信ポートをパッシブプローブ(チャネル3)で測定します。スペクトラムも同時に表示されています。結果より、コントローラーとレシーバーの間のSPI通信の開始(トリガイベント)と同時に、大きい広帯域エミッションがディスプレイ上に現れています。詳細がわかったら、SPIバス動作から生じ、パワーライン上の伝導性エミッションに反映されるこのエミッションを制限するための対策を定義できます。

まとめ

R&S®MXO 5シリーズ オシロスコープは、発生頻度の少ないイベントが発生する可能性があるミックスド・シグナル・アプリケーションでの伝導性エミッションの検証に最適です。45,000 FFT/sという超高速のFFT実装と、低雑音アナログフロントエンドの組み合わせにより、ミックスド・シグナル・パワー・デザインの周波数スペクトラム内の発生頻度の少ないイベントを見つけることができます。