妨害しないで。EMC対策による安全性の向上。

妨害しないで

数え切れないほどの多くの電気製品や無線端末などが干渉なく共存していることは、当たり前のことではありません。心臓ペースメーカーなどが誤作動を起こさないように、あるいは航空機が目的地まで安全に乗客を運ぶようにするには、EMC(電磁両立性)対策が不可欠です。

非常に大きな電磁力が存在するときに現れる事象

史上最大として知られるEMC関連の事故は、世界的な大惨事を引き起こす可能性がありました。しかし、重大な結果に至らなかったのは、影響を受けたであろう電気機器が単に存在していなかったためです。とはいえ、当時の電報システムが受けた影響は、電界強度が大きいときに電磁現象の力がいかに大きいかを警告しています。電報用の鉄塔は火花を散らし、衝撃を受けた電信係はとっさに機器から離れ、電報用紙は発火し、発信されていないはずの奇妙な電報が送信されました。通常は高緯度でしか見られないオーロラが赤道付近でも観測されました。1859年に起きたこの現象と同程度の太陽磁気嵐が現在発生すれば、ハイテクインフラに多大な影響を及ぼすと専門家は明言しています。統計的に見ると、こうした磁気嵐は、わずか500年ほどの周期で発生すると予想されています。こうした自然現象への対策とは対照的に、電気機器を他の機器による干渉から守る対策は、長年一般的に行われてきました。無線ネットワークの普及に着目すれば、今後その重要性はさらに高まると考えられます。

ラジオ時代の幕開け
1920年代
CISPRの設立
1934
R&S初のテストレシーバー
1937

認識され始めた問題

1900年ごろに無線が普及し始め、通信への利用が急速に広がる前は、電磁波スペクトラムの比較的低い周波数レンジを人々が意識するほどの感覚的システムは存在しませんでした。そのため、長い間人々は、電気機器、特にモーターによって発生する電子スモッグの量について考えることはなく、数十年間、それが人々を悩ませることもありませんでした。この問題が明らかになったのは、1920年代にラジオ放送が到来し、ラジオの周波数バンドの一部(最初はごく小さい部分のみ)を人々が継続的に「監視」するようになってからです。すでにささやかな楽しみとなっていたラジオ放送は、強いノイズに妨害されました。そこで明らかになったのは、皆のためのただ1つの電磁波スペクトラムを慎重に扱わねばならないということでした。

この問題が明らかになり始めたのは、1920年代にラジオ放送が到来し、人々がラジオの周波数バンドの一部を継続的に「監視」するようになってからです。

国境を超えた電磁波

したがって、電磁波障害を技術的に防ぐための勧告策定が国際機関の手に委ねられたことは自明の理であり、先見の明のあることでもありました。その国際機関とは、「国際無線干渉特別委員会」、通称CISPRです。1934年に設立され、国際電気標準会議(IEC)の傘下にあるCISPRは、電磁両立性の規格を発行する機関として現在も権威ある存在です。CENELEC、ETSI、FCC、ANSIなどの他の委員会は、CISPRの作業を補完する機関であり、電気部品を含む製品が監督官庁による認可なく市場に投入されることを防ぎます。市場関係者と国の指定機関はすべて、これらの非営利公共団体の委員会に代表者を派遣しており、各委員会の勧告には、法令決議により法的拘束力が与えられます。ローデ・シュワルツは、電子計測機器の大手メーカーとして標準化活動にも参加しています。規格を順守していることを適切なコストの測定によって確認できなければ、どのように素晴らしいルールも役に立たないためです。

EUでは、製品がEMCの規格を含むすべての関連規格の要件に準拠していることをCEマークで示しています。米国では、FCCマーキング(ラベル)が同様の役割を果たしています。しかし、すべての製品を正式に承認することは、膨大な製品数と関連コストから見て現実的ではありません。そのため、正式承認の責任はメーカーが負います。メーカーは、製品が規格に準拠するように取り組む必要があります。違反が見つかれば、厳罰の対象となるか、少なくとも製品販売を禁じられます。高額製品でさえ、時として、テスト機関から指摘を受けることがあります。例えば、Stiftung Warentest(ドイツの有名な消費者団体)が数年前に行ったeバイク(スポーツ電動アシスト自転車)のテストで、一部のeバイクが干渉源になることが判明し、メディアで大きな注目を集めました。現在でさえ、EMC特性が不十分な製品が数多く見られます。ドイツ連邦ネットワーク規制庁が2019年に行った調査によれば、対象製品の21.5 %が規制を順守していませんでした。

モニターを含め、すべての製品グループには固有のEMC規格があります。この写真は、伝導性妨害、つまりデバイスが電源ライン上で放出する妨害信号の測定に使用されるテストレシーバーです。

EMCの測定は、電磁的にシールドされた電波暗室(シールドチャンバー)で行われます。チャンバーでは、DUTからのエミッションのみが測定されます。また、イミュニティーテストの際、DUTが受ける干渉エミッションの漏れも防ぐことができます。無響室であるシールドチャンバーでは、内壁、天井、床を覆う吸収材が、浮遊する電磁エネルギーを熱に変換するため、「安定した」電磁環境が実現されます。

家庭電化製品のテストも必要です。この写真では、角度依存測定を行うために洗濯機をターンテーブルに配置しています。

車両、航空機、ヘリコプターを強い電磁界にさらして、イミュニティーをテストします。そのためには、適切な大きさのテストチャンバーに配置しなければなりません。

製品開発の早期にEMCの側面を考慮すれば、実装コストも低下します。電磁界プローブを使用すれば、回路からの不要なエミッションを検出し、位置を特定できます。

迷惑レベルから危険レベルまで

EMC規格の目的は、モーターや電子レンジなど、妨害信号を放出すべきでない製品にこの要件を順守させること、あるいは無線LANデバイスのように無線または放送での使用を承認された製品が該当規格の要件に準拠し、かつ他の無線サービスを妨害しないようにすることです。さらに、すべての製品は、規定の制限の範囲内にある外部からの電磁波障害に対して耐性を持たなければなりません。これらの条件を満たさない場合、単純な迷惑から重大な事故までのいずれかの事象につながる可能性があります。

例えば、ドイツのトーネード戦闘機の墜落は、低空飛行時に短波送信機からの強力な無線信号に機内の航空電子機器が反応したことが明らかな原因です。その結果、航空機メーカーは設計変更に追い込まれました。また、日本の報道によれば、産業用ロボットが作業者の前で急に動き出し、数名の死者が発生しました。ロボットの動作は、工場の放射性エミッションの影響によるものと推定されています。比較的小さな事故は数多く発生しています。例えば、未承認のベビーモニターが航空機に持ち込まれた結果、コックピットで赤ん坊の泣き声が受信された。軍用無線が原因でガレージのドアが動かなくなった。リモート・キーレス・エントリー・システムの信号が同じ周波数の電磁波障害によって無力化され、システムが突然機能しなくなり、ドライバーが乗車できなくなった、といった事例があります。

車両が試金石に

リモコン操作でドアロックの解錠を行うキーレスエントリーシステムがブロックされることは不快ですが、一般に危険なことではありません。しかし、現在の自動車は、電気電子部品が至る所に使用され、安全関連機能がますます増えています。安全な車両のみが承認されるため、車両内の全システムの電磁両立性が不可欠です。自動車業界固有のいくつかのEMC規格、例えば、配線に伴う妨害に対するイミュニティーの規格は、電磁両立性の確保を目的としています。車両への設置が進む無線デバイスを対象とした規制も増えつつあります。従来のEMCに加え、さまざまな無線通信サービスの安全な共存も、自動車に限らずますます重要になりつつあります。自動車の場合、モバイル通信や近距離テクノロジー(Wi-FiやBluetooth®など)だけでなく、GPSや無線のリモート制御機能、レーダーも一般に同じ製品に統合されるため、これらの機能が互いに干渉しないように連動する必要があります。無線テクノロジーが正しく実装されていない場合、便利な信号も容易に干渉信号になりえます。サプライヤーや自動車メーカーは損害賠償の理由だけでもこの問題を非常に重く受け止めており、最新鋭のテスト設備を運用しています。

EMC Story
EMCテストチャンバーは、幅広い用途に対応したテスト設備です。最大のチャンバーは、航空機を丸ごと格納できます。

脅かされる生命と身体

EMCの問題は、特に医療業界では重大な結果をもたらします。生命と健康が機器や体内植え込み式医療機器の確実な動作に左右されるためです。よく知られているのが心臓ペースメーカーです。前世代の心臓ペースメーカーは、無線信号の存在がそれほど綿密に考慮されておらず、外部の干渉を受けやすく、ペースが乱れることがありました。例えば、Nintendo DSの取扱説明書には、安全上の指示として、心臓ペースメーカーを装着している人が無線機能を使用する場合、ゲーム機を装着部位から9インチ以上離すように明記されていました。同様の勧告は、携帯電話にもありました(現在も見られます)。現在の植え込み式医療機器は、この点の耐性はあると考えられますが、この危険性を認識した以上、メーカーは製品開発で十分な注意を払う必要があります。無線インタフェース搭載の医療機器は、通常であれば米国連邦通信委員会(FCC)が監督責任を負うところですが、食品医薬品局が承認の権利を保有するのも頷けます。医療機器メーカーは、潜在的危険性にどのように対抗するか、さらに、どのテスト手法を使用して電磁両立性を証明したかを詳細に示さなければなりません。最新鋭の機器に適合する規格がまだ存在しない場合、メーカーは機器が目的の応用領域で干渉を起こさないように積極的に取り組む必要があります。また、必要な場合は、適切なテスト手法を開発しなければなりません。例えば、ローデ・シュワルツのEMCスペシャリストは、現在、大手医療機器メーカーの次世代患者監視装置のテスト手順に、テストハウスと共同で取り組んでいます。

病院、特に集中治療室では、患者の治療と監視に使用される機器の耐干渉性が不可欠です。安全上の理由から、院内、少なくとも手術室へのモバイル通信デバイスの持ち込み禁止は、現在でも一般的に行われています。さらに、データ送信の手段が有線接続からBluetooth®などの無線リンクに移りつつあることから、無線信号を放出する医療機器が増えています。遠隔医療では、リアルタイムアプリケーションに必要な低遅延の5Gモバイルネットワークがますます求められています。ローデ・シュワルツが開発したような一体型テストソリューションは、DUTのEMCと共存機能だけでなく、機能パラメータ(無線とデータ性能)も同時に着目します。そのため、複雑化するテクノロジーのテストを容易にし、テストのコストを削減します。

デジタルライフスタイルの保護

今世紀に入って無線製品の数は爆発的に増加し、すでに世界人口を大幅に上回っています。クラウドベースのスマートな無線サービスが生活のあらゆる領域に浸透しています。無線のホームネットワークはすでに主流であり、環境とネットワーク接続された自動車も近いうちに現実のものとなるでしょう。これらをすべて実現するには、限られた周波数リソースの利用に制限を設ける必要があります。テクノロジーで使用できる周波数の境界は規格によって定義されていますが、すべてがうまく動作しているかどうかは、専用の電子計測器でしか示すことはできません。

先陣を切ったローデ・シュワルツ

創業4年後の1937年、ローデ・シュワルツは最初のRF電界強度計を発表しました。おそらく、世界初でしょう。このRF電界強度計により、メーカーは、干渉に悩まされていた無線周波数バンドで自社デバイスのエミッションを測定できるようになり、具体的な対策が可能になりました。ローデ・シュワルツはこの製品グループに真摯に取り組み、数十年にわたる技術的進歩を達成し、新世代のデバイスを安定的に提供してきました。さらに、EMC関連の電子計測器ポートフォリオを継続的に拡張してきました。今日、このポートフォリオには、アンテナからターンキーのテストシステムに至るまで、電磁両立性の測定のために業界とテスト機関が必要とするすべてのものが含まれています。無線サービスの継続的急成長により、EMC関連の電子計測器の重要性はかつてないほど大きくなっています。