アドバンスドトリガベースのマルチチャネルパルス解析を用いたレーダー警戒受信機の特性評価

位相差は、方向探知(DF)シナリオの特性評価におけるキーパラメータです。DF機器を解析するには、方位など他のパラメータを測定する前に位相差を求める必要があります。R&S®VSE-K6A マルチチャネルパルス解析ソフトウェアをローデ・シュワルツのオシロスコープと組み合わせて使用することにより、過酷な環境下でもテスト機器のアドバンスドトリガ機能を使用して位相差を測定することができます。

レーダー警戒受信機
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課題

レーダー警戒受信機(RWR、上図参照)は通常、複数の受信部から構成され、受信部を一緒に評価することによって受信レーダーパルスの方向を求めます。通常、組み込まれている受信部の数が多いほど、方位の角精度が上がります。

使用される方向探知(DF)法は、対象となるアプリケーションによって異なります。一般的な方法は、到達時間差(TDOA)法と相関干渉法です。いずれの場合でも、研究開発における測定には受信部間の位相差を測定するための位相コヒーレントレシーバーが必要です。開発段階において、受信部の性能は理想的な条件で測定される他、多くの場合でより過酷なシナリオでも測定されます。

ローデ・シュワルツのソリューション

R&S®RTOおよびR&S®RTP オシロスコープは時間領域の測定器で、入力チャネルが時間コヒーレント信号の収集用に設計されています。

測定セットアップによって生じる潜在的なスキュー(伝搬遅延の差)を調整することができます 1)。アドバンスドトリガ機能では、イベントを分離し、詳細に解析することができます。以下では、過酷なシナリオについて述べ、強力なデバッグツールとしてのオシロスコープの機能を説明します。

図1:RWRの空間構成。受信部はポートおよびスターボードに向かってわずかに傾いています。
図1:RWRの空間構成。受信部はポートおよびスターボードに向かってわずかに傾いています。
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測定セットアップ

セットアップには、Xバンド(8 GHz~12 GHz)におけるシナリオをシミュレートするためのR&S®パルス・シーケンサ・ソフトウェアと、必要な信号を発生するためのデュアルチャネルのR&S®SMW200A ベクトル信号発生器が含まれています。R&S®RTP オシロスコープをR&S®VSE ベクトル信号解析ソフトウェアと組み合わせて解析を行います。位相差を再現するために、RWRの2つのアンテナのみをシミュレートします。これらのアンテナは、スターボードからポートまで、飛行機の翼端に11 m離して配置されています。さらに、シミュレーションにかかる工数を削減するため、すべてのオブジェクトを同じ高さに配置し、2自由度(東西座標など)に制限します。

多くの場合、状況が静的ではないため、RWRが動的シナリオに対処しなければならないことがあります。この例におけるシナリオは、移動エミッター(さまざまな振幅を発生するもの)と、静止エミッターから構成されます。RWRは静止状態に保たれます。図1と2は、R&S®パルスシーケンサによって生成された空間構成を示しています。Xバンドで動作している空中用レーダー(哨戒機)が、RWRを探知し、横方向に通り過ぎます。

図2:シミュレートシナリオの動力学。空中用レーダーはRWRに向けられており、地上レーダーは等方性のエミッションに設定されています。
図2:シミュレートシナリオの動力学。空中用レーダーはRWRに向けられており、地上レーダーは等方性のエミッションに設定されています。
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また、RWR入力におけるパワーレベルが空中用レーダーと同程度で、Xバンドで動作している別のレーダー(地上レーダー)があります。2つ目のレーダーは、RWR解析における妨害波として作用します。

地上レーダーからのパルスにはパルス繰り返し間隔(PRI)があり、地上レーダーのパワーレベルが空中用レーダーのパルスと同程度です。地上レーダーからの信号はポート側受信部では弱い一方で、スターボード側受信部では強く、空中用レーダーからのパワーレベルはポート側受信部で最大ですが、RWRを通り過ぎるにつれて小さくなり、反対にスターボード側受信部で最大になります。

図3:所定位置での自動トリガのみでは、安定なトリガ条件は達成されません。しかし、シナリオの適切なトリガ条件を探すための最初の概要を確立することはできます。
図3:所定位置での自動トリガのみでは、安定なトリガ条件は達成されません。しかし、シナリオの適切なトリガ条件を探すための最初の概要を確立することはできます。
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DFシナリオにおける位相差を求めることは重要です。R&S®RTP オシロスコープで受信した2つの信号における最初の単純なトリガで得られるのは、どちらかというと入り混じった図です(図3参照)。

オシロスコープが示しているのは、双方の受信部における持続時間が5 µsのパルスと、この5 µsの信号の周囲にランダムに分散された間欠的な1 µsの信号です。実際は、これらの値はR&S®パルス・シーケンサ・ソフトウェアでシミュレートされたシナリオにおける定義済みの値です。

タイプ パルスの持続時間 PRI 変調
哨戒機 1 μs 100 μs なし
地上レーダー 5 μs 20 μs Barker 13

上述のように、地上レーダーからのパルスは頻度が高く、解析に含めないようにする必要があります。シミュレートされた航空機の動きは3 kmの範囲を400 m/sの速度で横切り、片道約7.5 sになります。このタイムフレームでは、航空機から約75,000個のパルスが送信されるはずです。7.5 sを1回で収集しようとすると2×40 Gサンプル/s×7.5 s=600 Gサンプルのメモリが必要になるため、現実的ではありません。時間領域で1 µsのパルスを分離するために、トリガ条件を適切に設定する必要があります。

トリガ条件

トリガ条件については、アプリケーションカード「オシロスコープを使用したレーダーRFパルスのトリガ」(PD 3609.2000.92)で詳細に説明しています。哨戒機からのパルスは、ここで説明するトリガセットアップを使用して分離することができます。

トリガA
  • トリガA(オフ時間が100 ns超の幅トリガ)。この設定では、すべてのパルス(解析で考慮対象にならないパルスを含む)に対し安定にトリガすることができます。
トリガB
  • トリガB(タイムアウトトリガ)。このトリガは、10 nsの間、パルスがしきい値レベル未満だった場合に開始されます。トリガBは、意図されたパルスの持続時間よりも少し短い遅延時間が経過した場合、例えば95 %経過すると開始されます(この条件でも、この遅延よりも長いパルスはすべて捕捉されます)。
トリガC
  • トリガR(意図されるパルスの持続時間よりも、例えば10 %など、少し長いリセットタイムアウト)。この条件では、指定されたタイムアウトよりも長いパルスがすべて除去されます。その結果、1 µsのパルスのみが考慮されます。
R&S®RTPのチャネルが両方とも40 Gサンプル/sでサンプリングされます。
R&S®RTPのチャネルが両方とも40 Gサンプル/sでサンプリングされます。
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解析設定

解析は、R&S®RTP上で直接行う(アプリケーションカード「オシロスコープを使用したRFレーダーパルスの解析」(PD 5215.4781.92)およびアプリケーションノート「車載用レーダー - R&S®RTP オシロスコープによるチャープ解析」(GFM318)参照)か、専用の解析ソフトウェアを使用して行うことができます。R&S®VSE ベクトル信号解析ソフトウェアとR&S®VSE-K6A マルチチャネルパルス解析オプションを用いると、位相差や、パルス幅やドループなど他の重要なレーダーパラメータを短時間で求めることができます。

チャネル1と3が入力チャネルとして選択し、波形モードを選択します。この設定によって、R&S®RTPのチャネルが両方とも40 Gサンプル/sでサンプリングされます。

これで、オシロスコープで信号収集をする準備が整いました。
これで、オシロスコープで信号収集をする準備が整いました。
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中心周波数や捕捉時間などの重要なパラメータを設定し、検出アルゴリズムを構成したら、R&S®VSEを手動トリガモードに設定します。前述のトリガ設定をR&S®RTPに適用します。さらに負のトリガオフセットを定義すると、トリガがパルス捕捉をトリガマークの左側にシフトさせるため、適切なタイミングを確実にすることができます。これで、オシロスコープで信号収集をする準備が整いました。

図4:R&S®VSE-K6A マルチチャネルパルス解析オプションのメイン解析ビュー。位相差は、マーカーを使用するか(右下のウィンドウ)、または結果表の値(右上のウィンドウ)から求めることができます。
図4:R&S®VSE-K6A マルチチャネルパルス解析オプションのメイン解析ビュー。位相差は、マーカーを使用するか(右下のウィンドウ)、または結果表の値(右上のウィンドウ)から求めることができます。
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マルチチャネル解析における主な解析ツールには、パルス位相(ラッピング)とパルス位相(アンラッピング)の測定機能があります(図4の右下のウィンドウを参照)。新しいトレースを作成し、チャネル3に割り当てます。2つの曲線上にマーカーを配置し、それらを互いにリンクさせると、位相差が測定できるようになります。このデルタマーカーにより、この例では位相差が279°であることがわかります。位相差は、結果表の値(右上のウィンドウ)から求めることもできます。

まとめ

位相差測定には、位相コヒーレントレシーバーが必要です。さらに、特に過酷なシナリオでは、適切なトリガ条件を設定することによって対象のレーダー信号の解析をスピードアップすることができます。R&S®VSE-K6A マルチチャネルパルス解析オプションでは、R&S®RTOおよびR&S®RTP オシロスコープで利用可能なデジタルトリガ機能をすべて使用することができます。これにより、自動位相差測定を組み合わせた最も重要なレーダーパラメータの自動解析が可能になります。

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