LTEビーム形成の試験

LTEは無線テクノロジーの主流となっています。この規格のいくつかある新しい機能の中でも、マルチ入力マルチ出力(MIMO)テクノロジーにはさまざまな利点があります。

スループットの向上、到達距離の拡大、干渉の低減、ビームフォーミングによる信号対干渉ノイズ比(SINR)の向上を実現します。LTEは、伝送設定を最適化するために、さまざまなモードをサポートしています。

LTE MIMO基地局は、ベースバンドユニット、リモート無線ヘッド(RRH)、最大8本のアンテナアレイで構成されます。RRHは、ベースバンドユニットのデジタル信号をアナログ信号にアップコンバートして各アンテナに送ります。

課題

上述のシナリオでは、基地局のソフトウェアは、メイン・ビーム・ローブがUEに向くように、個々のアンテナ信号の重み付けを制御します。これらの信号は複雑に見えます。チャネル間の重み付けは、偏波を表す複素ベクトルとの乗算によって行われます。ソフトウェアのテストやシステムのデバッグでは、信号を解析して、規格に従って事前に定義されている重み付けがされているか、UEの位置に対応した重み付けがされているかを検証することが重要です。

測定セットアップ
測定セットアップ
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電子計測ソリューション

この作業では、R&S®RTO2044とR&S®RTO1044が、アンテナチャネル間の振幅や位相シフトを解析するのに非常に有効なツールです。高いデータ収集レートと高性能FFTにより、信号の変化をすばやく検出できます。ダウンコンバータは不要です。R&S®RTOの帯域幅は、定義されている周波数バンドをカバーしています。

ビームフォーミングが示されたアンテナダイアグラム
ビームフォーミングが示されたアンテナダイアグラム
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ビームフォーミングは、通常、信号が連続していないLTE時分割デュプレックスモード(TDD)で使用されます。これらの信号については、R&S®RTO オシロスコープのパルス幅トリガとウィンドウトリガにより、ダウンストリームパルスだけが捕捉され、休止時間は記録されません。このため、スペクトラム解析が大幅に簡素化されます。もう1つの利点は、R&S®RTOのマルチチャネル機能です。5チャネル以上を同時に解析する必要がある場合は、複数のオシロスコープに簡単に拡張できます。

アプリケーション

この測定セットアップの例では、LTEトランスミッターのREFチャネルとMEAS1チャネルをR&S®RTOに接続しました。これにより、1×2 MIMOシステムに対応します。

垂直軸と水平軸の設定

最初の測定では、LTEトランスミッターはLTE TDD信号をアサートし、オシロスコープは、垂直軸をフルスケールの80 %以上に設定して、2つのチャネルを使用してこの信号を捕捉します。

LTE TDD信号の安定したトリガ。
図3:LTE TDD信号の安定したトリガ。
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水平軸は、高いデータ収集レートと、FFTに必要なサンプル数と分解能帯域幅(RBW)を両立できるように設定されます。

R&S®RTOのパルス幅トリガは、LTE TDD信号のバーストだけを捕捉するのに使用します。パルス間のギャップは無視されるため、ギャップ部分のノイズによって信号のFFT測定でバイアスが生じることはありません。

図3は、パルス幅トリガを1 ms、捕捉時間を20 msに設定した場合に捕捉された2つのLTE TDDバーストの安定したグラフを示しています。トリガレベルは、赤い破線で示されています。

LTE TDD信号のスペクトラムと実効値の測定。
図4:LTE TDD信号のスペクトラムと実効値の測定。
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信号パワー

信号のスペクトラム適合性を確認するために、REFチャネルのスペクトラムを以下に示します。予想どおり、2.0175 GHz(LTEバンド)で15 MHzの帯域幅の信号です。振幅の重み付けは、REFチャネルとMEASチャネルに対して自動VRMS機能を使用することによって測定できます。REFチャネルとMEASチャネルのRMS電圧比によって、重み係数の大きさが決まります。図4の右側には、RMS電圧の測定結果が示されています。以下は、REF(青)チャネルとMEAS(ピンク)チャネルのトレースです。信号のみの測定なので、正確な測定値が得られます。トリガ設定により、ギャップ部分で発生するノイズは測定から除去されます。

REFチャネルとMEASチャネルの位相差。
図5:REFチャネルとMEASチャネルの位相差。
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位相シフト

REFチャネルとMEASチャネルの間の位相シフトを求めるには、位相差を計算するためのMATHチャネルを設定します。図5に結果を示します。

最適化されたデータ収集パラメータを用いた場合の位相差。
図6:最適化されたデータ収集パラメータを用いた場合の位相差。
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以下の2つが重要なポイントです。

  • まず、波形上の不規則なスパイクです。これらのスパイクは、サンプリングがシンボルに同期していないために生じます。これらのスパイクは、オシロスコープをトランスミッターのクロックにロックし、FFT分解能帯域幅(RBW)をLTEのサブキャリアの帯域幅である15 kHzに設定し、トリガ位置を最適なポイント(この例では40 μs)に設定することによって低減できます。改善された位相差が図6に表示されています。はるかに滑らかになっています。REFチャネルのスペクトラムも、図4に比べて改善しています。
バイアスがかかっていない位相差を計算するための数式エディター。
図7:バイアスがかかっていない位相差を計算するための数式エディター。
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  • 第二に、測定セットアップの遅延により、波形がリニア関数によってオーバーレイ表示されています。遅延などの位相偏移の影響は、ビームフォーミング(重み付け)を用いずにセットアップを校正し、位相差グラフからREF波形を作成し、位相差からREF波形を減算することによって簡単に取り除くことができます。図7に、選択したチャネルの位相を計算するfftphi関数を使用したMATHメニューのセットアップを示します。
REFチャネルとMEASチャネルの校正後の位相差。
図8:REFチャネルとMEASチャネルの校正後の位相差。
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校正の結果、図8に示すように、位相測定の結果はフラットなラインになります。測定の確度を評価するために、波形ヒストグラムを適用し、ヒストグラムに基づく自動測定機能を使用して、位相測定の平均値と標準偏差(σ)を求めます。結果は、右側の赤い線で囲まれた信号アイコン内に表示されます。オフセット(HMean)が0.1 °未満で、標準偏差(Hσ)も0.25 °未満なので、代表的なテストシナリオで1 °の確度で位相を測定するためには十分です。

よりチャネルが多い場合の測定セットアップ
図9:よりチャネルが多い場合の測定セットアップ
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測定をさらに多くのチャネルにまで簡単に拡張できます(図9を参照)。例えば、1×4 MIMOには、4チャネルのR&S®RTO デジタル・オシロスコープが必要です。パワースプリッター(REF信号用)と3台のオシロスコープを使用して、スプリッターの出力を各オシロスコープに接続し、残りの7つの信号を空いているオシロスコープのチャネルに割り当てることにより、1×8 MIMOシステムを解析できます。

R&S®RTOとR&S®VSEソフトウェアを組み合わせて使用して、エラーベクトル振幅(EVM)、I/Q不平衡、コンスタレーションダイアグラムなどの追加パラメータを測定することにより、LTE信号をより詳細に解析できます。

まとめ

1台以上のR&S®RTO デジタル・オシロスコープを使用することにより、1×2、1×4、さらには1×8 MIMOシステムについても、LTEビームフォーミングを正確にテストできます。振幅と位相については、代表的なテストシナリオで非常に正確に測定できます。測定に専用のソフトウェアは不要で、R&S®RTOに搭載されている標準的なファームウェアで実行できます。

参考文献

  • M. Kottkamp、A. Rössler、J. Schlienz、J. Schütz。LTE Release 9 Technology Introduction。ミュンヘン:Rohde & Schwarz GmbH、2011
  • Bernhard Schulz。LTE Transmission Modes and Beamforming。ミュンヘン:Rohde & Schwarz GmbH、2015

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